◎北國銀行が挑む「業界別営業」の衝撃=組織風土から生まれる「問いを立てる力」

 CCIグループ傘下の北國銀行が、支店別の法人営業から「業界別営業」に切り替える改革を進めている。銀行業界が長らく続けてきた「支店別営業」をどうして「業界別営業」に切り替えたのか。
 その狙いを探ると、「付加価値と生産性が高い仕事とは何か」を問い直すとともに、これまでの「常識」を疑い、組織を変えていく真の「X」(トランスフォーメーション)はどのように起きるのかを知る「手がかり」に辿り着くことができる。

◎北國銀行が挑む「業界別営業」の衝撃=組織風土から生まれる「問いを立てる力」

 CCIグループ傘下の北國銀行が、支店別の法人営業から「業界別営業」に切り替える改革を進めている。銀行業界が長らく続けてきた「支店別営業」をどうして「業界別営業」に切り替えたのか。

 その狙いを探ると、「付加価値と生産性が高い仕事とは何か」を問い直すとともに、これまでの「常識」を疑い、組織を変えていく真の「X」(トランスフォーメーション)はどのように起きるのかを知る「手がかり」に辿り着くことができる。

▽業界別営業体制とは

 北國銀行は2024年春から、本店営業部のある金沢エリアから「業界別営業体制」への移行を始めた。

 2025年春には小松・加賀・能美エリア、2026年春には松任営業部を本店営業部に統合し、本店営業部、南加賀営業部、富山営業部が移行済みとなっている。

 たとえば、本店営業部には、建設、機械、飲食など8つの業界別担当が設けられ、計14人の「業界別営業部長」を配置している。企業数の多い建設業などは、4人の部長で手分けして管轄するのだ。

 業界別に割り振られた担当者たちは、各部長をヘッドとして、営業部エリアをまわり、高い専門性ある法人営業を展開している。

▽営業部制への移行

 業界別営業体制の前段階として、まず支店制から営業部制への移行があったことを忘れてはいけない。この改革があったからこそ、業界別営業体制に移行できたのだ。

 北國銀行は2022年3月から、全行的な「営業部制」への移行を開始していた。

 営業部とは、従来の銀行の支店業務にとどまらず、CCIグループのコンサル子会社「CCイノベーション」や「北國総合リース」、投資助言を担う「CCIAP(シーシーアイアセットパートナーズ)」の社員も駐在し、顧客へ総合サービスを提供する拠点である。

 北國銀行としても、支店に分散している法人営業担当者を営業部に集めることで合理化を図り、同時にグループの総合力を発揮させることを狙っていた。

 それまでは、たとえば「本来1.5人で回せる業務量でも、支店単位である以上、最低2人を配置しなければならない」という「支店の制約」に頭を悩ませてきたのである。

 もっとも、こうした「営業部制」への移行自体は、他の地方銀行でも行っている。ただし、グループ全体の総合力の発揮というよりも、「エリア内の支店の法人営業の集約」にとどまっているのだが。

 いずれにしても、「支店単位」での法人営業が地域によっては限界を迎えていることは間違いない。

▽「聖域」への改革に踏み込めたワケ

 注目すべきは、なぜ北國銀行は「営業部制」にとどまらず、業界別営業という改革にまで踏み込めたのか、だ。その「差」である。

 営業部への移行が始まった翌2023年頃から、北國銀行内では「業界別営業」の議論が熱を帯び始めていた。

 最大の目的は、「顧客への付加価値提供」と「生産性の向上」であったという。

 背景事情を考察してみよう。

 北國銀行を含むCCIグループは、勘定系システムのクラウド化を始め、システム開発の内製化をドライバーとして、銀行業界をリードするデジタル化の変革を進めてきた。

 2020年12月から、タッチ決済可能でポイントも貯まる北國Visaデビットカードの運用を始めた。さらに、2021年1月から通帳・印鑑レスで、振り込み手数料ゼロ(条件あり)・各種ローン金利が優遇される総合金融サービス「HOKKOKU LIFE+(北國ライフタス)」をスタートさせた。

 この「タッチ決済カードやスマホで口座管理できる新たな金融サービス」は、2023年3月に始まった三井住友銀行の総合金融サービス「Olive(オリーブ)」に先んじている。

 ただ、デジタル化を進めたとしても、「人と組織体制はそのままで良いのか」を問い直している銀行は少ない。

 2026年は、Anthropic(アンソロピック)社のAI「Claude Cowork」や「Claude Code」に代表されるように、AIが能動的にタスクをこなす新たな時代に踏み込んだ。AIエージェントの時代だ。

 銀行の定型業務は遠からずAIが代替し、銀行にも中小企業にも劇的な「生産性」が問われる時代が到来する。

 どうして北國銀行で「業界別営業」への議論が起きたのか―。

 筆者の仮説はこうだ。

 北國銀行は、デジタル化に先行して取り組んでいたからこそ、「人と組織の改革」、すなわち「これまでの支店制は未来の地域金融にとって最適なのか」という問いをいちはやく立てることができたのではないか。

▽改革で何が起きたか

 実際、営業部&業界別営業体制への改革で何が起きたのだろう。

 以前は、デジタル化による合理化を進めた効果もあり、法人営業1人あたりの担当先は30~40社だったという。

 改革後は、60~70社と増えたが、月1~2回程度の訪問と、業界に特化した「深い対話」ができるようになった。「とりあえず顔を出しました」という訪問がなくなるのもうなずける。

 また、グループ全体への効果も出ている。

 一連の改革により、かつて300人規模だった法人営業部隊は、現在約200人体制でまわるようになった。

 改革で創出された約100人の人員、とりわけ旧支店長クラスの優秀なマネジメント層は、グループのコンサルティング事業を担うCCイノベーションなど、成長が期待される新収益領域へと戦略的に再配置されている。

 支店制は、地理的に独立性の高い石川県の羽咋(はくい)支店や、富山・福井の一部などの5店舗。かつて、70~80人も存在した「支店長」ポストを大幅に減らした。

 もちろん、店舗そのものが消滅したわけではない。各店舗は個人向け業務の拠点として、また、新たな法人営業の前線基地として、形を変えて有効活用されている。

▽150年の「常識」を疑う

 渋沢栄一が国内初めての銀行「第一国立銀行」を設立したのが1873年だ。以来153年、日本の銀行はインターネット銀行、異業種から参入した銀行を除けば、どこも同じ「支店制」の形態であり続けている。

 すなわち、本部と各地の支店が存在し、たまたま支店に配属された銀行員が、たまたま支店のエリアにいる企業を担当している。

 なるほど、能力ある営業担当者ならば、顧客企業の課題や潜在的なニーズを掘り起こし、業界特性、企業独自の特色を深く学び、企業をうならせる「価値あるアドバイスや提案」につなげることで内容の濃い法人取引にできるかもしれない。

 ただ、顧客企業の側から考えれば、それはどこまでいっても属人的である。そうした「できる担当者」に出会えるかどうかは「運任せ」「担当ガチャ」となってしまう。

 これが150年の銀行の「常識」(裏返せば世間の「非常識」)であった。

▽支店制とは何だったのか

 そもそも、銀行における「支店制」とは何だったのか。支店長は何のために存在しているのか。

 「営業と預金獲得のための前線基地」「管理経験を積ませるための役職」「出世のための登竜門」と、様々な見解があるだろう。しかし、CCIグループの杖村修司社長の答えは辛辣である。

「組織の目標に向けて支店同士を競わせ、上が下を評価しやすい『管理』のために存在する仕組みです」

 秩序だった指揮命令系統と責任の所在を明確にする「管理しやすい組織」をつくる上で、支店制は「最適解」だったのだ。

 しかし、組織は「組織体制」という制約を受ける。組織体制以上のパフォーマンスを出すことはできないのだ。

 人口減少が進んでいく地方の現実をみれば、これまでの「運任せ」「担当ガチャ」では地域の生産性が「劇的に向上」するはずがないのは明らかだ。

▽組織風土

 「問いを立てる力」の源泉は、何か。それは、組織風土にある。

 実は北國銀行では、2020年から上期・下期に開く「支店長会議」を廃止している。支店長会議とは、経営側から経営方針と営業目標が示され、その必達を誓わされる場である。

 驚くべきは、北國銀行の場合、「廃止」がトップダウンの決定ではなかったことだ。

 生産性向上を志向する支店長たちが自ら、「無意味なので廃止してほしい」と声を上げたのである。現場からの「下意上達」によって、決まったのだ。

 北國銀行では、現場に近いところに権限と責任を持たせ、「経営の屋台骨」となるべく中堅幹部を長年かけて育成してきた。

 事実、2023年には「事業性与信については原則すべて店長専決」へと決裁権限を大幅に見直した。決裁スピードを向上させるためだ。

 自律的な組織文化を育むことは一朝一夕にはいかない。

 いくらデジタル化や組織改革を標榜しようとも、中堅幹部が問いを立て、戦略を優先する組織でなければ、形ばかりのものとなるのだから。

著者について

編集長:橋本卓典

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。2009年から2年間、広島支局にも勤務。2020年編集委員。2025年8月から経済ジャーナリストとして独立。2016年5月に「捨てられる銀行」(講談社現代新書)を上梓、累計35万部のベストセラーになる。NIKKEI FINANCIALにも寄稿。ラジオNIKKEI「記事にできない金融ウラ話~橋本卓典が語ります」でパーソナリティも務める。

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1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。2009年から2年間、広島支局にも勤務。2020年編集委員。2025年8月から経済ジャーナリストとして独立。2016年5月に「捨てられる銀行」(講談社現代新書)を上梓、累計35万部のベストセラーになる。NIKKEI FINANCIALにも寄稿。ラジオNIKKEI「記事にできない金融ウラ話~橋本卓典が語ります」でパーソナリティも務める。

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