◎社員資産形成を経営戦略に統合するCCIG=譲渡制限付き株式で「資産1億円」も
「貯蓄から投資へ」というスローガンが叫ばれて久しい。新NISAの普及に加え、足元では物価高への懸念も生活者の間では強く、インフレに負けない資産運用への関心はかつてない高まりを見せている。
企業でも社員の資産形成を福利厚生の柱として位置付けるところが出始めた。一般社団法人みんなの金融教育協会(FiNA)の岩城みずほ代表理事は、この動きを「福利厚生3.0への過渡期だ」と指摘している。
福利厚生3.0とは、保養所などの「ハコモノ」や割引制度というこれまでの福利厚生にとどまらず、社員一人ひとりの資産形成を成し遂げながら、「生きがい」「働きがい」「エンゲージメント」を人的資本経営に結集、統合していく概念でもある。
これを実践するのが、CCIグループ(CCIG、旧北國フィナンシャルホールディングス、2025年10月に改称)だ。
大半の金融機関が社員の資産形成支援を「制度」としては整備していても、ファイナンシャルウェルネスを通じた「オーナーシップマインド」という経営戦略にまで落とし込んでいるところは、ほとんどない。
本コラムでは、CCIGの社員資産形成を深掘りしながら、どのように人的資本経営に結び付け、経営戦略として描いているのかを考察する。
- 2025年12月25日
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◎社員資産形成を経営戦略に統合するCCIG=譲渡制限付き株式で「資産1億円」も
「貯蓄から投資へ」というスローガンが叫ばれて久しい。新NISAの普及に加え、足元では物価高への懸念も生活者の間では強く、インフレに負けない資産運用への関心はかつてない高まりを見せている。
企業でも社員の資産形成を福利厚生の柱として位置付けるところが出始めた。一般社団法人みんなの金融教育協会(FiNA)の岩城みずほ代表理事は、この動きを「福利厚生3.0への過渡期だ」と指摘している。
福利厚生3.0とは、保養所などの「ハコモノ」や割引制度というこれまでの福利厚生にとどまらず、社員一人ひとりの資産形成を成し遂げながら、「生きがい」「働きがい」「エンゲージメント」を人的資本経営に結集、統合していく概念でもある。
これを実践するのが、CCIグループ(CCIG、旧北國フィナンシャルホールディングス、2025年10月に改称)だ。
大半の金融機関が社員の資産形成支援を「制度」としては整備していても、ファイナンシャルウェルネスを通じた「オーナーシップマインド」という経営戦略にまで落とし込んでいるところは、ほとんどない。
本コラムでは、CCIGの社員資産形成を深掘りしながら、どのように人的資本経営に結び付け、経営戦略として描いているのかを考察する。
▽時代を先取りする「キャリア支援金」
邦銀で唯一、退職金を廃止し、それを前倒して支給するキャリア支援金に切り替えているのは、北國銀行を傘下にもつCCIGだけだ。2022年3月に制度を移行した。
なぜ、「安定の象徴」でもあった退職金を廃止したのか。それは、CCIGが高度な専門性をもつ「プロフェッショナル集団」を目指すために組織改革に取り組む必要があったからである。
CCIGは、伝統的な銀行業だけでは、地域のDX(デジタルトランスフォーメーション)を伴う生産性向上を成しえないと判断。銀行業の枠を超えたコンサルティング領域などへの事業拡大を積極的に進めている。
これを実現するには、人材ポートフォリオも変革しなければならない。すなわち、「新卒一括採用」ではなく、即戦力の「キャリア採用」へ重心を移す必要があったのだ。
2025年3月末時点で、CCIG全社員に占めるキャリア採用者の比率は25.69%で、単年度ベースでは新卒採用数を上回っている。「新卒一括採用」という古い慣習に固執しているだけでは、変革は望めない。
他方、これまでの年功序列を前提とした退職金制度を続けていては、今後の流動化する人材市場において、若手や中途入社者にとって不利な「足かせ」となりかねない。「これからのインフレ時代において、数十年後まで受け取れない固定化された退職金に、どれほどの価値があるのか」―。CCIGの変革の意味は鋭く、深い。
退職金を前払いで受け取り、早いうちから長期分散投資に回して複利の効果を享受するか。あるいは若いうちだからこそ自己投資(スキルアップや語学習得)に充てるか。社員に裁量を委ね、自律的なキャリア形成と資産形成を促すことの方が明らかにプロフェッショナル志向なのだ。
▽ファイナンシャルウェルネス
会社が企業型確定拠出年金などの制度を整備しただけでは意味がない。
遥かに重要なことは、社員が制度を使いこなし、物心共に豊かになることだ。これが達成されなければ、仕事のパフォーマンスもおぼつかない。自分の仕事の成果が会社の成長と自らの資産形成につながるのだという「自分事化」にまで落とし込めるか。この概念をCCIGは「ファイナンシャルウェルネス」と呼び、大切な価値観としている。
学生が自律的に金融知識を身につけることを目的に、FiNAが設立した団体「ライフデザインラボ」(LDラボ)がCCIGの担当者にインタビューし、対談動画をYouTubeにアップしている。インタビュアーはLDラボの横山豪さん(慶大生)が務め、入社2年目の人材開発部人材開発グループ・堀はな子氏(採用担当)が応じた。
堀氏は、「心と体の健康だけでなく、お金の面での安心感を充足させることが、仕事のパフォーマンスやエンゲージメント向上に直結する」と対談で語った。
堀氏によれば、CCIGでは、このファイナンシャルウェルネスを「学ぶ」「把握」「相談」「行動」の4フェーズで体系化し、徹底的なサポートを行っているという。
「学ぶ」フェーズでは動画コンテンツ提供や職場内での討議だ。
「把握」では自社開発アプリ「かんたん家計簿」やチェックシートを用い、社員自身が収支の可視化を行う。堀氏自身も、このプロセスを通じて「学生時代のアルバイト収入をすべて使い切っていた『支出癖』が抜けておらず、投資余力が不足していた」と自身の体験を明かした。
そして「相談」。2023年に専用窓口を設置し、顧客向けにファイナンシャルプランニングを提供しているプロのFP(社内副業制度を利用した社員FP)が、同僚のライフプラン相談に無料で乗る仕組みを整えた。
これらを経て「行動」へと促す。社員持ち株会や譲渡制限付き株式(RS)、企業型確定拠出年金(DC)などがその受け皿だ。
社員持ち株会は、月額上限10万円までの積立に対し、会社が10%の奨励金を上乗せする手厚い制度設計だ。結果として、20代の持株会加入率は50%を超え、全社員の約1300人が制度を利用。多くの社員が長期積立投資を実践している。
2025年11月25日に開催されたファイナンシャルウェルネス社員説明会では、実際に顧客へ資産運用提案を行っている営業店の専門担当者など7名が登壇した。顧客向けの高度なノウハウを社内教育に還元し、実務に即したアドバイスが行われた。「顧客本位な業務運営」を掲げる金融機関であるならば、まずは真っ先に社員にそのサービスを還元すべきではないか。
▽オーナーシップマインドの本質
CCIGの資産形成戦略の特徴は、「オーナーシップマインド」の醸成手法にある。
CCIGの社員持ち株会は、いまや同社の第4位の大株主である。単なる福利厚生の受け皿ではない。
持ち株会の職場代表者たちが、杖村修司社長ら経営トップと「1on1」で対話を行う場が設けられているのだ。決算概要や経営方針について直接議論を交わし、その様子はリアルとオンラインで全社公開される。半ば「物言わぬ安定株主」のごとく、社員持ち株会を置いている多くの企業とはまったく異なるのだ。
2025年7月15日、本社で開催された1on1ミーティングは、リアル、リモートのハイブリッド型で、約500人の社員が参加した。
職場代表者たちが、「戦略」「事業施策」「資本政策」「ブランディング」などのテーマについて杖村社長に質問や提言をし、活発な意見交換が行われた。
「社員」でありながら同時に「株主」でもある。この2つの立場を自覚させることによって、会社の成長を「自分事」として捉え、自律的に行動するマインドセットを育むことができる。これがCCIGのオーナーシップマインドの本質なのだ。
▽譲渡制限付き株式で「同じ船に乗る」
さらに、CCIGは「譲渡制限付株式(RS)」の付与制度を設けている。
RSとは、一定期間の譲渡制限がついた現物株式を報酬として付与する仕組みだ。
一般的には役員報酬として導入されるケースが多いが、CCIGはこれを社員向けに展開している。業績連動型であり、会社の業績が良ければ付与される株式数や価値も増大する。業績が最大水準に達すれば、一般社員であっても100万円相当の株式が付与される設計だという。
杖村社長は、12月上旬に発した社内向けコメント「本格的な資産運用業のステージへ―自らの資産形成から始まる未来で」の中で、RS制度の本質について、次のように語りかけている。
「当社のRS制度は3年前、キャリア人事制度の一環として導入しました。退職金制度の廃止と同時期だったため、退職金代替と誤解された方もいたかもしれません。しかし、退職金廃止時には、その相当額を税金も考慮し、金利相当分の割引をせずに前倒しで年俸に加算済みです。RSは退職金の代替ではなく、まったく別の目的を持っています」
では、その目的とは何か。杖村社長は続ける。「その目的は『経営陣・株主・社員が同じ船に乗り、価値観を共有する』ことです」―。
株価が上がれば資産が増え、増配があれば手取りが増え、それを再投資に回すこともできる。社員が株主と同じリターン、そして同じリスクを共有する。これこそが、「同じ船に乗る」という最もフェアで強力なインセンティブ・システムなのだ。
▽「65歳で1億円」のシミュレーション
RS制度は、具体的にどの程度のインパクトがあるのか。杖村氏は、驚くべきシミュレーションを社員に提示している。
モデルケースはこうだ。
仮に23歳の新入社員が、付与されたRSを30年間売却せずに保有し続ける。さらに、受け取った配当金と同額を社員持ち株会で再投資(10%の奨励金込み)し続ける。これを定年まで繰り返した場合、どうなるか。
前提条件として、株価は変動せず、ROE(自己資本利益率)8%以上を維持し、配当利回りを3.5%と仮定する。
「この場合、65歳時点での自社株の評価額は約1億円に達します」(杖村社長)というのだ。
1億円―。多くのサラリーマンにとっては夢のような数字だが、理論値として確かにはじき出される数字だ。CCIGに夫婦勤めの場合は2億円である。しかも、65歳以降は税引後で1人あたり毎年約300万円の配当を受け取ることが可能になるという。いわば「自分年金」の完成である。
ただ、杖村社長が伝えたかったRSの本質は以下にある。
第一に、「ROE8%以上の維持」という経営目標が、単なる機関投資家へのアピールではなく、社員自身の老後の豊かさに直結する「自分たちの目標」になるということだ。会社の利益率向上は、巡り巡って自分の「資産1億円」への道となる。これほど明確なモチベーションはない。
第二に、複利とエクイティ(株式)投資の持つ長期的な爆発力への気づきだ。銀行員であれば知識としては知っているリスクテイクや複利効果を、自社株という最も身近なツールで実感することができる。すなわち、資産運用はCCIGにおいても今後の事業の柱となる可能性を秘めており、そのことを自らも身をもって体験するということを意味する。
▽資産形成支援こそ「人的資本への投資」
FiNAの岩城みずほ代表理事は、「現状は、まだまだ『社員の資産形成や福利厚生は後回し』という企業が多い」と指摘する。多くの企業において、福利厚生はあくまで「おまけ」としか認識されていないのが実情だ。
しかし、CCIGの事例が示すのは、資産形成支援は強力な「人的資本への投資」だということだ。
若手社員、キャリア人材が将来に備えて資産形成や自己研鑽に励み、多くの社員が株主としての視座(オーナーシップマインド)を持って業績向上にコミットする。そして、その結果として株価が上がり、社員の資産も増える。CCIGは自らの手で「資産形成」をテコにした人的資本経営の最適解を導き出そうとしている。
地方発の企業が「65歳で資産1億円の社員を生み出す」ことに本気になって挑戦している。これも、この国が目指すべき「資産運用立国」の姿なのではないか。