◎外国人留学生の「リアル就活事情」=森興産④
「自分を動物にたとえてください」―。
就職面接で、面接官から投げかけられる変わった質問の一例として、よく聞く話である。
日本人であれば、そこが「就職面接の場」であり、「面接官は何らかの思惑をもって質問し、受け答え方などでこちらを見定めようとしている」こと、さらには「次に飛んでくる質問」も予想しながら、「何らかの動物」を挙げるのではないか。
ところがだ。日本特有のこうした面接対策を受けていない外国人留学生の場合、日本人の想像を超えた次のような回答をすることがあるのだという。
「私は動物ではありません」
相手が外国人留学生であることを配慮せず、このような質問を投げかける企業、面接官にも問題があるだろう。ただ、面接の雰囲気がぎこちなくなり、不採用に至るケースもあるのは現実だ。外国人材の活躍を考えた時、このような文化的背景によるミスマッチは避けたい。
今回は、累計1万人以上の外国人留学生に日本での就職活動、キャリアデザインを教えてきた森興産の森隼人社長に、外国人留学生の就職事情を徹底取材した。外国人材の活躍を考える上で、外国と日本の「常識」のギャップを理解することは重要なはずだから。
- 2026年1月7日
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◎外国人留学生の「リアル就活事情」=森興産④
「自分を動物にたとえてください」―。
就職面接で、面接官から投げかけられる変わった質問の一例として、よく聞く話である。
日本人であれば、そこが「就職面接の場」であり、「面接官は何らかの思惑をもって質問し、受け答え方などでこちらを見定めようとしている」こと、さらには「次に飛んでくる質問」も予想しながら、「何らかの動物」を挙げるのではないか。
ところがだ。日本特有のこうした面接対策を受けていない外国人留学生の場合、日本人の想像を超えた次のような回答をすることがあるのだという。
「私は動物ではありません」
相手が外国人留学生であることを配慮せず、このような質問を投げかける企業、面接官にも問題があるだろう。ただ、面接の雰囲気がぎこちなくなり、不採用に至るケースもあるのは現実だ。外国人材の活躍を考えた時、このような文化的背景によるミスマッチは避けたい。
今回は、累計1万人以上の外国人留学生に日本での就職活動、キャリアデザインを教えてきた森興産の森隼人社長に、外国人留学生の就職事情を徹底取材した。外国人材の活躍を考える上で、外国と日本の「常識」のギャップを理解することは重要なはずだから。
▽クリスマス・イヴの講義
「クリスマス・イヴの12月24日午前1時にベトナムを出て、帰国し、そのまま岡山へ向かって講義し、24日の夜、大阪に戻って、忘年会に参加してきました」
怒涛の年末スケジュールの合間を縫って、森社長が欠かさず足を運ぶのは、岡山市の環太平洋大学の「キャリアデザイン授業」だ。
2016年頃のことだった。岡山市で開催された留学生向け合同企業説明会に森興産はブースを構えて参加していた。
当時、企業、大学には「在学中から就労への在留資格(ビザ)の切り替え」に関する知識が不足していた。森興産は、この相談に応じる専門家として招かれたのだ。
そこに環太平洋大学の職員がやってきて「実は、留学生の卒業が近づいてきて」と相談を持ち掛けたことがきっかけとなった。どう就職支援をするのか、ビザの切り替えに関するノウハウを知らなかったのだ。
相談に応じたところ「それなら一度、大学で学生に教えてもらえないか」という依頼を受け、臨時講義という形で学生へのサポートが始まった。全15回のキャリア支援講義のうち3~5回の枠を森興産が受け持つことになったのだ。
前回のコラム(◎国際交流は「友好」から「競争」の時代=自治体外交のパラダイムシフト―森興産③)に登場した森興産のベトナム人女性社員は、環太平洋大学の3期生で、森社長が直接指導した学生の一人だった。卒業後、森興産への就職を決めたのだという。
▽「まずは日本を知る」から
そもそも東南アジアからの留学生の就職感覚はどのようなものなのか。
「留学生は、就職活動を始める時期が極めて遅いのです。気づいたら、卒業ギリギリになってから、『大手企業に行きたい』と言い出す人もいます。日本の就活スケジュールと全く噛み合っていません」と森社長。
森社長の授業は、まず「マインドセット(心構え)」から始まる。
たとえば、「時間感覚」だ。「時は金なり(Time is Money)」ならぬ、「時は命なり(Time is Life)」だと教える。時間を守ることは、相手の命(寿命の一部)を無駄にしないことだ、という精神性を説くのだという。
講義スケジュールに余裕がある時は、イザナギ(伊邪那岐命)とイザナミ(伊邪那美命)の神話や八百万の神の話から話を始める場合もあるという。
その理由について、森社長は、「なぜ日本では食べ残しをしないのか。なぜ道具を大切にするのか。その根底にある文化や思想を理解しないと、日本の職場には馴染めないこともありますので」と語る。
たとえば、中国では食べ残すことは「食べきれないほどのもてなし受けた」という意味がある。逆に「食べ残しがない」ということは「十分なもてなしを受けていない」とも受け取られかねない。食文化や習慣の違いがあるのだ。
▽「CV」と「履歴書」の決定的違い
海外の就職活動では「CV(Curriculum Vitae)」を提出するのが一般的である。CVは履歴書とは異なる。これも日本では知られていない。
CVは最大限に自己PRするための書類だ。海外では、斜めのアングルからのスナップ写真をクリップで止めて会社側に提出するのも当たり前である。日本の履歴書では言わずもがな、「スーツで正面を向いた上半身で、背景は無地」が原則だ。日本語で書かねばならないことは言うまでもない。
CVでは、外国語が「少しだけできるレベル」でも「流暢に会話できるレベル」とアピールする。一方、日本の履歴書では、TOEICや英検など客観的な指標を提示し、書きぶり全体には謙虚さが好ましいとされる。
履歴書と異なり、CVには定型フォーマットはない。履歴書のようにコンビニで買えるという時点で、外国人留学生にとっては「驚き」なのだ。「A4用紙1枚で自己表現せよ」というのも外国人留学生には難しく、これをクリアするには事前の訓練が必要だ。日本のように「糊付けがはがれた場合に備えて、写真の裏に名前を書く」という習慣も外国人にはない。
履歴書に書いた一言一句を暗記して、面接で諳んじる留学生もいる。面接官は履歴書を既に読んでおり、面接では「履歴書に書かれていないこと」を聞き出したいということを理解していないためだ。
「履歴書に書いてあることをそのまま読み上げるだけなら面接の意味がない。そこから話をどう膨らませるか、どう会話のキャッチボールをするか。それを留学生に教えないと、暗記したセリフが飛んだ瞬間、頭が真っ白になって面接が終わってしまいます」と森社長は指摘する。
▽「卒業=ビザ切れ」という落とし穴
前述の通り、留学から就労で切り替わるビザ(在留資格)の実態も一般的には知られていない。
海外の場合、特にジョブ型雇用の国々では、卒業即就職というケースは少ないのだ。卒業後にインターンを経験したり、一度、実家に戻ってから、じっくりと職を探すのが一般的である。そのため、留学生たちは日本でも「卒業してから就職活動をすればいい」と、のんびり構えていることが多いのだという。
しかし、日本ではそれが致命傷になる。
留学生が日本の学校を卒業した場合、留学の在留資格は役割を終え、帰国のカウントダウンが始まる。ビザが切れたら帰国するしかない。新卒一括採用が一般的な日本では、3月に卒業し、たとえば5月に就職活動を始めようと思っても難しいのが現実だ。
大学は「在学中」の管理には責任を持つが、卒業後の学生は管轄外となる。
他方、企業は「入社後」の社員には責任を持つものの、「卒業後・入社前」の期間、あるいは「卒業したが就職先が決まっていない期間」の留学生を支える仕組みはない。
ハローワークの外国人雇用サービスセンターも、東京や大阪など大都市圏にしかない。地方の留学生が卒業間際になって「このままではビザが切れる」と気づいた時には、相談先もなく、すでに手遅れ——いわゆる「詰んだ」状態に陥るケースも十分に考えられるのだ。
「学校と企業、この二つは外国人材の採用という点で分断されています。そこを繋ぐパイプが薄い。そこに、我々、森興産の介在する余地があり、使命があるのです」と森社長は語る。
▽「常識」の相互理解も重要
他方、外国人留学生の「常識」が日本の常識とは異なることへの理解も今後は重要ではないだろうか。
たとえば、氏名を書く欄に「ふりがな」と表記されている場合は平仮名、「フリガナ」の場合はカタカナで書くのは日本の常識だ。ところが、外国人はカタカナで書くことが標準だと教えられて日本で暮らしている。その場合、「ふりがな」と平仮名書きを強いる意味はあるのだろうか。
面接で「趣味は?」と聞かれれば、その答えから次の質問に展開していくことをある程度予想して、日本人は受け答えをするが、留学生にはそれがなかったりもする。「阿吽の呼吸」という文化がないためだ。
交通機関の遅延など不測の事態を考慮し、面接開始時間の30分から1時間前には現地に到着しておくのも日本ならではの「常識」だが、外国人留学生には通じない。
早めに到着して、トイレなどの鏡でネクタイを整えたり、スーツからはみ出している襟を直す習慣もない。冬の場合、コートを着たまま面接会場に入ってしまうこともある。
面接で、足を組んで着席したり、背中をもたれかかって椅子に座ったりと、能力ではない「身なり」や「所作」で、面接で落とされるということが海外の常識ではないためだ。
環太平洋大学のキャリアデザイン授業では、化粧品会社によるメイクアップのプログラムもあるという。濃い化粧、体臭を防ぐためのエチケットとしての香水は、外国人では「常識」だが、日本の就職活動では控えた方が良いからだ。
就職活動のためだけにスーツを買うことに抵抗感を抱く留学生もいるという。
日本で暮らすからには日本に慣れてもらうことも大切だが、有能な外国人材を確保するためにも、日本だけが世界と比べてあまりにも異様な習慣を「常識」とし続けることも見直す余地はないのか、柔軟に検討すべきだ。
多様な宗教を包摂し、融合させて独自の文化を育んできたのが日本なのだから。