◎介護業界における外国人材の「タテマエと実態」=森興産の森社長に聞く
介護業界では、2022年度に約215万人だった介護職員が、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人必要になると試算されている。その一方で、2026年時点で約25万人、2040年には約57万人の介護職員が不足すると予測されており、この深刻な人手不足ギャップをどう埋めるかが最大の課題だ。
この点、介護業界で働く外国人労働者は9万人以上とされているが、国内の人手不足を鑑みれば、外国人労働者抜きに介護業界の担い手を維持していくことは現実的に考えにくい。
現在、介護業界の外国人労働者を取り巻く在留制度はどのようなものなのか。どのような状況で働き、課題があるのか。森興産の森隼人社長に徹底取材した。
- 2026年4月1日
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◎介護業界における外国人材の「タテマエと実態」=森興産の森社長に聞く
介護業界では、2022年度に約215万人だった介護職員が、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人必要になると試算されている。その一方で、2026年時点で約25万人、2040年には約57万人の介護職員が不足すると予測されており、この深刻な人手不足ギャップをどう埋めるかが最大の課題だ。
この点、介護業界で働く外国人労働者は9万人以上とされているが、国内の人手不足を鑑みれば、外国人労働者抜きに介護業界の担い手を維持していくことは現実的に考えにくい。
現在、介護業界の外国人労働者を取り巻く在留制度はどのようなものなのか。どのような状況で働き、課題があるのか。森興産の森隼人社長に徹底取材した。
▽介護職外国人材の4類型
日本で介護職として働く外国人材の在留資格は4類型に分けられる。EPA介護福祉士・候補者、在留資格「介護」(介護福祉士の取得者)、特定技能、技能実習(2027年4月からは育成就労)だ。
厚生労働省によれば、EPA介護福祉士・候補者は在留者数3186人(うち資格取得者587人)、在留資格「介護」が9328人、技能実習が14751人、特定技能が28400人と最多である。
これまで介護業界は、介護福祉士試験に合格した高度人材のみを専門的な外国人労働者(在留資格「介護」)として認めることで、「介護の質の維持」を優先してきた歴史がある。
現在、介護人材の深刻な人手不足に対して、2029年までの特定技能および技能実習(育成就労)における外国人受け入れ上限はわずか16万700人である。「現実的な解決策が急務」(森社長)となっている。
▽立ちはだかる専門用語の習得という壁
EPA介護福祉士・候補者とは、日本と経済連携協定(EPA)を結んだ特定の国(インドネシア、フィリピン、ベトナム)からの受け入れだ。
EPAは幅広い分野の経済関係強化を目的として結ばれる条約である。FTA(自由貿易協定)が「モノの関税」をなくすことが目的であるのに対し、EPAは「関税撤廃」にとどまらず、「サービス貿易の自由化」「投資の保護」「知的財産権の保護」「人の移動(労働者の受け入れ)」というより広い対象のルールだ。
EPAに基づき特例として受け入れているのが、看護師・介護福祉士の「外国人候補者」である。
その目的は「日本の国家資格(介護福祉士、看護師)を取得してもらうこと」にある。最長4年の間に、国家試験に合格しなければ母国に帰国しなければならない。日本人でも容易ではない試験に合格するには、介護業界の専門的な用語も習得する必要がある。
たとえば、ベッドから車いす、車いすから便座へ乗り移る動作である「移乗(いじょう)」、床ずれを防ぐために寝たきりの要介護者の体の向きを変える「体位変換」、入浴の代わりに温かいタオルで体を拭いて清潔に保つ「清拭(せいしき)」、食べ物を飲み込む「嚥下(えんげ)」、食べ物や唾液を誤って気管に飲み込んでしまう「誤嚥(ごえん)」、寝たきりの姿勢が原因による床ずれ「褥瘡(じょくそう)」、寝たきりで関節が固まる「拘縮(こうしゅく)」、「徘徊(はいかい)」、認知症で落ち着きがなく大声を出す「不穏(ふおん)」、「帰宅願望」などの用語は、日常生活では使わない日本語である。
試験に合格すれば、日本永住や家族の帯同も可能になる。EPAは単なる「人手不足解消」のためではなく、相手国の要請に基づいて受け入れ、「高度人材として育成する」ことを目的としている。あくまでも「候補者」であり、受け入れ要件、施設側のサポート義務が厳しく、介護業界で働く外国人労働者としては決して多くない。
当然の帰結として、「今すぐ介護人材が欲しい」という需要には応えられない。制度の建付けは「二国間協力・資格取得」を目的としているため、「人手不足・即戦力希望というニーズとマッチしていない」(森社長)のだ。
▽技能実習制度の「タテマエ」と「実態」
制度の「趣旨」と「実態」がかい離してきた最たるものが「技能実習」である。
技能実習制度の本来の目的は「人材育成」と「国際貢献」だ。
開発途上国の若者を日本に受け入れ、最大5年間技能・技術・知識を学び、習得したものを母国に持ち帰ることで送り出し国の経済発展につなげるのが狙いである。つまり、技能実習生は、労働者ではなく、実習(トレーニング)を受ける対象なのだ。
ところが実態はまったく異なる。
森社長によれば、介護だけでなく、製造、建設、農業など様々な業界において「安価な労働力」として認識されてきてしまっている。実習生側も「技術を学んで母国に帰る」ではなく、「日本で出稼ぎをして家族に仕送りする」ことが目的となっているケースも多い。
▽なぜ「実習生=労働者」となったのか
なぜ制度の「目的」と「実態」がかい離したのか。
各業界特有の背景があるが、介護業界を例に取ると、まずは仕事の過酷さがある。夜勤、肉体労働、精神的ストレスがつきものだ。また、介護施設は定員が定められており、いわゆる売上の上限が決まってしまう中、賃金水準が高まらず、日本人の採用が非常に難しいという背景がある。仮に多少の賃金を上げたとしても容易には人は集まってこないのが現実だ。このため施設は本来の目的と離れ「実労働者」として実習生を使ってしまうのだ。
また、日本は外国人材に関して、「高度人材は受け入れるが単純労働・現場労働は受け入れない」という方針をとってきた。現場労働するためだけのビザ(在留資格)という「正面玄関」が閉ざされていたため、企業側が「国際貢献」「留学(週28時間のアルバイト)」という別制度を「裏口」として使って、実質的な労働力として確保せざるを得なかった実態がある。
実習生は「特定の企業で技術を学ぶ」ことが名目上、求められているため原則として職場を変えることはできない。このため、長時間労働、賃金未払い、ハラスメントが生じても、実習生に逃げ場はなく「現代の奴隷制度」と国内外から批判される原因となったのである。
技能実習制度に「介護」が追加されたのは2017年だ。ただし、他業種にはない壁として前述した「専門用語の壁」がある(森社長)。
実習生は日本語能力試験(JLPT)N4程度(基本的な日本語の理解できるレベル)で来日するが、2年目(技能実習2号)に進む際には、N3(日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できるレベル)を習得しなければならない。
「年2回しかないJLPTで不合格だった場合、在留資格が切れて帰国を余儀なくされる場合もある。コロナの際はJLPTの実施が世界的に中止されるなどの事情もあった」(森社長)。そこでこれに代替する試験として年3回実施される介護に特化した試験として「JLCT介護日本語能力テスト」があり森興産は、このテストの実施(大阪会場)も行なっている。
▽特定技能と在留資格「介護」へのステップアップ
介護業界における「特定技能(1号)」は、深刻な介護人材の不足に対応するため、2019年4月に創設された在留資格だ。即戦力の労働者として受け入れることが可能となった。
一定の介護技能と日本語能力を持つ外国人が、施設系介護サービスで最長5年間、即戦力として働くことができる。主に身体介護(食事、入浴、排せつ介助など)と支援業務を手掛ける。
特定技能の5年の間に介護福祉士の国家資格を取得すれば、在留資格「介護」へ切り替えることができ、家族帯同や実質的な永住(長期就労)への道が開けるキャリアパスとなっている。
技能実習は実習の特殊性から実習実施者(施設)の常勤職員総数に基づき、人数制限が設けられているのに対し、特定技能は、事業所ごとの常勤職員数を超えない範囲で受け入れができる。
特定技能外国人は、特別養護老人ホームで最も多く受け入れられており、国籍をみると、ベトナムが最も多く、次いでインドネシア、フィリピン、ミャンマー、ネパールの順だ。「現在の国籍が今後も継続して受け入れが進むとは限らない。すでに他の業界や留学生では東南アジアから南アジアへと国籍がシフトしているという実態。また、各国の政策にも注視する必要がある」(森社長)とされる。
▽在留制度の転換と今後の展望
深刻な人手不足が続く各業界であるが雲行きも変わりつつある。
2027年4月からこれまで「国際貢献」というタテマエと実態が乖離していた技能実習制度は廃止され、新たに「育成就労制度」が開始することとなった。
同制度で来日する外国人材は「労働者として働きながら特定技能1号になり得る人材を育成する」こととなる。労働者として認めることで転籍制限も一定程度緩和され、より長期的に日本で働き続けるためのステップとして再定義されたのだ。
2029年3月末までに、介護分野の外国人の受け入れは「育成就労」が約3.4万人、「特定技能」が約12.7万人(計16万700人)を上限として設定されたが、先に述べた様にこの人数規模で介護業界の人手不足が解消するのかは疑問だ。転籍が認められることで、外国人はより給与水準が高い都市部へ流入することが考えられる。
地方でも安定的に人材を確保するためには、育成就労から特定技能、そして国家資格を取得して在留資格「介護」へと続く明確なキャリアパスを主軸としながら、給与だけでなく福利厚生を充実させたり、地域の魅力を伝えるとともに生活面の支援も行うなど、どこまで外国人材を活躍させ定着・定住させられるかが焦点だ。業界のみならず各地におけるエコシステムを崩壊させないための試金石となる。