◎「未来志向融資」の企業価値担保権は何を変えるのか=金融庁キーパーソン鼎談・備忘録(企業価値担保権②)
昨日(2025年11月12日)は、ジンテック主催のセミナーで追手門学院大の水野浩児教授、金融庁の水谷登美男事業性融資推進室長と鼎談した。2026年5月26日から始まる企業価値担保権で、参考となる話が出たので備忘録として記す。
- 2025年11月13日
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◎「未来志向融資」の企業価値担保権は何を変えるのか=金融庁キーパーソン鼎談・備忘録(企業価値担保権②)
昨日(2025年11月12日)は、ジンテック主催のセミナーで追手門学院大の水野浩児教授、金融庁の水谷登美男事業性融資推進室長と鼎談した。2026年5月26日から始まる企業価値担保権で、参考となる話が出たので備忘録として記す。
▽引当上限30%が目安か
水谷室長によれば、米国で将来キャッシュフロー(CF)を見極めながら融資するキャッシュフロー・レンディングにおける回収率は70%とのことだった。これは、貸出先が最終的にM&Aで譲渡した場合の売却収入も含めてのものだという。裏返せば、貸倒率(デフォルト率)は30%程度ということになる。
仮に日本の企業価値担保権付き融資においても同じような実績率を出した場合、引当率の上限も30%ということになる。物事に「絶対」はないが、企業価値担保権を使った融資の引当の上限は、貸出金の30%程度という一つの目安になるかもしれない。もちろん、実効性ある経営改善支援、モニタリングをより丁寧に行えば、デフォルト率も20%、10%と低減させることもできるだろう。
これまでの不動産担保・保証に依存した融資慣行は、金融検査マニュアル(1999~2019年廃止)下で定着した、過去の倒産・貸倒実績率を強く反映させた引当方法がもたらした副作用であった。
1999年当時の不況であれば、過去実績は厳しいものとなり、貸倒引当金の計上は多額なものとなった。これは一面では不良債権処理を加速させた。
しかし、いつまでも過去実績に依存した融資管理はいびつなものとなった。アベノミクスによる好景気で、「過去に倒産がない」という**(良い意味で)**異例の事態になると、「破綻懸念先なのに倒産実績がない」ため、「将来においても引当はほとんどゼロ」という異常な融資管理となってしまった。過去の確率に依存していたからだ。
ただ、これらは「過去の確率が悪い」というよりも、「貸出先の事業性をまともにみてこなかった融資慣行」のツケである。
▽「未来志向融資」という新たな過去実績
将来CFを重視せざるを得ない企業価値担保権付き融資は、今までの「貸出先の事業性をまともにみない融資」とは異質なものとなろう。なぜならば、企業と金融機関の「密なコミュニケーション」と「綿密なモニタリング」、さらには「損益改善支援」もセットとなるからだ。
いわば、企業価値担保権付き融資という、これまでとまったく違う未来志向の融資慣行による「新しい過去実績」が生まれてくるのだ。
水谷室長は鼎談で、「企業価値担保権付き融資の実績」は、将来の検査にも反映されるかもしれないという考えを示した。まったく違う融資慣行によって紡ぎだされる「過去実績」は、未来志向の融資にどの程度の確からしさがあるのかを証明するものとなるだろう。
▽IFRS第9号の「先行体験」
もう一つのインプリケーションは、水谷氏が10月29日に企業会計基準委員会が公表した「金融商品に関する会計基準(案)」との関係性についても言及した点である。来るべきIFRS第9号の日本実装である。
筆者も現在、草案を解読・考察中のため詳細な論評はここでは避けるが、「債務者区分は維持しながらも引当方法については、時価・将来CFを重視する」という骨格となっている。 具体的には「信用リスクの著しい増大」の有無次第で、(信用リスクが著しく増大していない)正常先や一部の要注意先は「向こう12カ月(1年)の予想信用損失」を、(信用リスクが著しく増大した)要注意先以下は「全期間の予想信用損失」を計上するというものだ。いずれもIFRS第9号の趣旨通りの内容となる。
ここで、先行して始まる企業価値担保権付き融資の位置づけが大変興味深いものとなる。なぜならば、企業価値担保権付き融資は、まさに新会計基準案が求める将来CFに焦点を合わせるものだからだ。
つまり、地域金融機関にとっては、来るべき日本版IFRS第9号の導入を前に、将来CF重視の融資管理を企業価値担保権で「先行体験」できるということを意味するのではないだろうか。