◎金融機関は「経営管理任せる専門家」をどう評価すべきか=企業価値担保権④
企業価値担保権をめぐる諸課題をどう考え、対処すべきかをテーマとし、2025年9月から毎月開催してきたジンテックセミナーの最終回(5回目)が1月19日、都内で開催された。
今回のコラムでは、セミナー最終回の内容を踏まえ、企業価値担保権を運用するにあたり、重要なコベナンツ(制限条項)の一つとなるであろう「経営管理を任せる専門家」の品質をどう担保するのかについて考察したい。
- 2026年1月20日
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◎金融機関は「経営管理任せる専門家」をどう評価すべきか=企業価値担保権④
企業価値担保権をめぐる諸課題をどう考え、対処すべきかをテーマとし、2025年9月から毎月開催してきたジンテックセミナーの最終回(5回目)が1月19日、都内で開催された。
今回のコラムでは、セミナー最終回の内容を踏まえ、企業価値担保権を運用するにあたり、重要なコベナンツ(制限条項)の一つとなるであろう「経営管理を任せる専門家」の品質をどう担保するのかについて考察したい。
▽なぜ専門家が必要か
2026年5月25日から始まる企業価値担保権は、全資産担保で1行取引がメインシナリオとなる。原則、経営者保証はつかない。
言うまでもなく、企業価値担保権付き融資では、特に金融機関と企業の信頼関係、金融機関による深い事業理解が重要となる。
具体的には、①事業計画、それを信頼関係として補完する②財務コベナンツ、さらに企業価値に重要な影響を及ぼす事象を金融機関に報告しなければならない報告コベナンツを設定する。事業計画の履行状況、コベナンツの状況を定期的に金融機関が③モニタリングしていくことで、企業価値担保権付き融資を管理していく流れとなる。
報告コベナンツの一つには、「経営管理を任せられる専門家とのコンサル契約」を結ぶことが必要になってくる見通しだ。
スタート時の企業価値担保権付き融資は、1金融機関あたり数件が滑り出しと目されるが、いずれ件数が増えれば、金融機関の担当者だけでは融資管理が難しくなるかもしれない。
担保価値が安定している不動産担保と異なり、中小企業の企業価値は、商取引のちょっとした見直しやキーパーソンの退職などで簡単に変化してしまう。だからこそ、できるだけリアルタイムで状況を把握しておく必要がある。そのためには、「経営管理を任せられる専門家とのコンサル契約」がコベナンツとして重みをもつのだ。
▽コンサル「丸投げ」を防ぐために
ここで留意すべきは、金融機関がシステム開発でも幾度となく繰り返してきた無責任な「丸投げ」の再燃である。
長らくの担保・保証への過度な依存で、損益改善という企業支援力を失った地域金融機関がそもそも「専門家の力量を評価できるのか」という疑問は当然あるだろう。
ただ、だからといって、「専門家の力量を何も管理しない」ことが正解ではあるまい。むしろ、「昔からお世話になってる」という非合理的な理由で、「経営管理を任せる」ことほど危ういことはない。専門家の力量についても金融機関が「目利き力」を養うことは、企業価値担保権時代だからこそ必要なのではないか。
ジンテックセミナー最終回では、わずか半年間という短期間で自走化できる組織づくりまで支援するブレイン・アンド・キャピタル・ソリューションズ(BACS)の黒澤祐一マネージングディレクターが「企業価値を高めていく支援」と題して基調講演し、その後、追手門学院大の水野浩児教授、筆者で公開鼎談を行った。
わずか半年という短期間で自走化できる組織づくりまで手掛けるBACSの企業支援には、外せないポイントがいくつかある。それを転用し、「専門家の力量評価項目」として金融機関が使うという手があるのではないだろうか。
黒澤氏によれば、業績が芳しくない企業の場合、顧客への「価値提供」と、顧客側の「価値認知」がズレているケースが多いという。
たとえば、このズレが具体的にどのようなもので、そのズレを専門家はどう修正しているのか。ズレ具合を5段階で評価してみてはどうだろうか。ズレの修正力は、専門家の力量ともいえるだろう。少なくともズレを認識すらしていないのであれば、その「専門家」で大丈夫だろうか。
▽事業性評価だけでは企業支援として不十分
初歩的なレベルでは、社長、財務担当役員以外の経営幹部、部長クラスから話を聞いてもいないのは、企業支援として危うさがある。特に経営者と現場が不仲である場合、経営者だけでなく現場の声を聞かなければ事業や組織の実態の情報を正しく把握できていないかもしれないからだ。
また、売れ筋トップ3とその売上をたたき出している顧客を把握しているかも最低限、必要だ。なぜ売れているのかを知ることは支援の初動で把握すべきである。特に主要売上高をつくっている顧客の動向を知る必要がある。
同時に売れ筋トップ3が、利益筋であるかどうかも決定的に重要となる。売上が増減した場合の利益インパクトも読むことができるからだ。
経営改善計画の策定で満足するようでは、経営管理の専門家ではない。計画を実行に移す実行力こそが問われる。これが専門家を評価すべき極めて重要なポイントだ。どのような素晴らしい計画を描こうと、組織を動かせないようでは、専門家として話にならないのである。
黒澤氏も「事業性の評価は目利き力。事業性の具現化が支援力です」と区分けして解説した。
黒澤氏は、事業性評価とは、表面的な財務分析からは見えない事業、組織の実態、課題、伸びしろ、勝ち筋であると説明する。つまり、その企業としての正しい意思決定のための情報整理である。
しかし、「事業性評価」と「正しい意思決定」だけでは、目指すべき「実利の実現」には到達できない。
「正しい意思決定」を「正しい行動」に移さなければならないからだ。事業性評価で構築した打ち手を実行に移すため、組織行動、PDCA運動につなげてこそ初めて企業支援力と呼べるものなのだ。
いわば、事業性評価だけでは企業支援として不十分なのである。組織行動と自走化するためのPDCAサイクル整備まで含めて事業性具現化を成しえてこそ、企業支援と銘打つべきものではないだろうか。
専門家の力量を評価するには、事業性具現化力までみるべきなのだ。
▽「本物」が選ばれる時代
405事業(経営改善計画策定支援事業)とは、その多くが「債務者区分を維持する代わりにリスケするだけの手段」でしかなかった。要は、問題の先送りである。これでは生産性も向上せず、持続可能性も守ることはできない。
企業価値担保権は、リスケのための実現不可能な計画では許されない。融資する金融機関も融資される企業にも真剣勝負が求められる。
同様に、「企業支援の専門家」も単なる「計画策定屋」であることは許されない。実行フェーズこそが問われる。組織行動に展開できる手腕が求められるのだ。その意味において、真の支援力が試されるのであり、金融機関はそれを見極めねばならない。
企業価値担保権時代においては、支援者も「本物かどうか」が問われるのだ。