◎「みみずや」が耕す。長野県飯綱町に見る、地域再生の「土壌改良」
長野県飯綱町(いいづなまち)。長野市から車で約30分、人口約1万人のこの町に胎動がある。驚くべきことに、転入超過による人口増が起きているのだ。
なぜ、この中山間地域に人が集まるのか。その鍵を握るユニークな企業「みみずや」の取り組みと、そこで試みられている新しい地域経済の循環について、ラジオNIKKEIの「記事にできない金融ウラ話」 https://www.radionikkei.jp/urabana/251126.html で解説したので、桑鳩堂でもリポートする。
- 2025年11月30日
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◎「みみずや」が耕す。長野県飯綱町に見る、地域再生の「土壌改良」
長野県飯綱町(いいづなまち)。長野市から車で約30分、人口約1万人のこの町に胎動がある。驚くべきことに、転入超過による人口増が起きているのだ。
なぜ、この中山間地域に人が集まるのか。その鍵を握るユニークな企業「みみずや」の取り組みと、そこで試みられている新しい地域経済の循環について、ラジオNIKKEIの「記事にできない金融ウラ話」https://www.radionikkei.jp/urabana/251126.html で解説したので、桑鳩堂でもリポートする。
▽飯綱・戸隠とは
飯綱町を語る前に、その背後にある精神的な風土がある。この地域の象徴とも言えるのが「戸隠(とがくし)神社」だ。日本三大そばの一つ「戸隠そば」でも知られるこの地には、天岩戸(あまのいわと)伝説が残る。
神話によれば、天照大御神が隠れた天岩戸を、怪力の神・天手力雄命(あめのたぢからおのみこと)がこじ開け、放り投げた岩がドスンと落ちた場所が戸隠山の山体になったという。
実際に奥社まで足を運んでみたが、これがなかなかの道のりだった。汗だくになりながら杉並木の参道を歩き、急斜面を登る。途中、屋根が苔むした随神門(ずいしんもん)の荘厳さ、樹齢数百年の杉が並ぶ圧倒的な空間。そこには、理屈を超えた「場の力」があった。
この土地が持つ力強さ、あるいは「土壌」の豊かさ。それが、現代のまちづくりにも通底している。
▽廃校を再生させた「みみずや」の挑戦
飯綱町は、少子化の影響で小学校が廃校となっていた。しかし今、その廃校は「飯綱コネクトWEST」として、驚くべき活気を帯びている。
その中心にいるのが、株式会社「みみずや」だ。
代表の中條翔太氏、副代表の滝澤宏樹氏ら、若き経営者たちが2019年の台風19号による水害支援をきっかけにこの地に入り込み、立ち上げた会社である。
社名の由来は、チャールズ・ダーウィンの言葉にある。ダーウィンは進化論で有名だが、晩年はミミズの研究に没頭し、ミミズを「地球の皮膚」と呼んだという。これはあまり知られていない。
土を食べ、排泄し、土壌を豊かに耕し続けるミミズ。 「自分たちも地域に入り込み、土壌を耕す存在でありたい」――そんな思いが「みみずや」には込められている。
みみずやが廃校で展開している事業は多岐にわたる。
例えば、本格的なフィットネスジムの運営。元サッカー日本代表の石川直宏さんが「生産パートナー」として参画する農園「ナオズファーム」との連携。ここでは糖度20度を超える、まるでフルーツのようなトウモロコシ「なおもろこし」が栽培されている。
さらに、生ごみを堆肥化するコンポスト事業や、地域住民と移住者をつなぐコミュニティづくり。地元のキノコメーカー「ホクト」の保養所の運営受託に至るまで、その活動はまさにミミズのように地域の隅々まで行き渡っている。
廃校を訪れると、きれいに整備された人工芝で子供たちがサッカーをし、カフェでは母親たちが談笑している。単なる「ハコモノ活用」ではない。そこには確かな「人の交流」と「経済の循環」が生まれていた。
▽「きれいごと」で終わらせない経済感覚
特に印象に残ったのは、副代表の滝澤氏との対話だった。滝澤氏は長野高専出身のエンジニアというバックグラウンドを持つ。
「地元で暮らしたい。でも、どうすれば『好きな場所で生きること』と『仕事・お金』を両立できるのか」 。滝澤氏は、その問いに対する解を、泥臭く、かつ論理的に模索していた。
地方創生は、ともすれば「想い」ばかりが先行し、経済合理性が置き去りにされがちだ。しかし、彼らは違う。「ただ良い事をしたいだけではない。経済活動として回していかなければ、持続可能ではない」―。
その現実感(リアリティ)のある言葉には、移住者として、そして経営者としての覚悟が滲んでいた。だからこそ、地域の人々も彼らを信頼し、農地を貸し、共に汗を流すのだ。
▽「腐るお金」が地域を豊かにする
みみずやは「新しいお金の形」を実践している。
一つは、「休眠預金」の活用だ。
金融機関の口座に眠ったままの預金を、社会課題解決のために活用する制度だ。みみずやは、これを「地域循環共生圏を支える人材育成」のために活用している。過去の遺産を、未来への投資へと転換させる試みだ。
そしてもう一つ、極めてユニークなのが地域通貨「いいづなPay」(通称なっぺ)の仕組みである。
これは一般社団法人「わけしょ」が運営し、共感コミュニティ通貨プラットフォーム「eumo(ユーモ)」のシステムを利用している。最大の特徴は「3ヶ月で腐る(消滅する)」点にある。
通常、お金は貯め込むことができる。しかし、この通貨は期限が来ると回収されてしまう。だから、ユーザーは失効する前にどんどん使おうとする。これが地域内の経済循環を加速させる。
さらに面白いのは、回収された(腐った)お金の行方だ。正確には消滅するのではない。地域のために加盟店で通貨を使った人たちに、「再配布」されるのだ。
つまり、「地域のために消費活動をした人」に追い風が吹く仕組みなのだ。単なる等価交換の道具ではなく、人の行動や共感を応援し、循環を促進するお金。これは、貨幣の概念を覆す社会実験ではないか。
▽地域金融機関はどこへ?「ミミズ」に負けるのか
ダーウィンが「地球の皮膚」と呼んだミミズのように、みみずやは、リスクを取り、土を食べ、地域という土壌を懸命に改良している。デジタルを活用し、新しい通貨の概念を取り入れ、外部の人材を巻き込みながら、自律的な経済圏を作ろうとしている。
ひるがえって、地域の金融機関はどうだろうか。
今回の取材を通じて感じたのは、残念ながら金融機関の影の薄さである。もちろん、融資という形で資金は提供している。しかし、「地域金融力の強化」が叫ばれる今、ただお金を貸すだけで十分と言えるだろうか。
みみずやや、地域の人々が汗をかき、リスクを取って挑戦している現場において、金融機関の担当者はどれだけその輪の中に入っているだろうか。「お金は出すが、口も汗も出さない」では、地域のパートナーとは呼べない。
飯綱町で起きていることは、単なる一過性のブームで終わらせてはいけない。人口減少社会における生存戦略のリアルな挑戦だ。
地域金融機関こそ、その最前線で「ミミズ」と共に土にまみれる気概を見せてほしい。