◎計測とコベナンツの「沼」を越えて=伊藤貢作氏が勉強会・企業価値担保権(前編)⑤
企業価値担保権付き融資をめぐり北門信用金庫の伊藤貢作常勤理事企画部長兼企業支援室長が1月26日、金融庁で「企業価値担保権の『業種別支援の着眼点』を活用した実務的理解」~実務者としての私見~と題した勉強会を開催した。
伊藤氏は言わずと知れた「業種別支援の着眼点」の原案作成者。伊藤氏の勉強会は1月23、26日に金融庁で開催され、2月20日には近畿財務局でも実施予定だ。伊藤氏は金融庁地域金融企画室専門調査員も務めている。
企業価値担保権付き融資をめぐっては、金融庁は「画一的な融資管理手法」などの公式見解を示さない見通しだ。かつての画一的な金融検査マニュアル(別表の引当ルール)が「事業性があっても担保がない企業には貸せない」という極端な融資慣行を生み出した、との反省があるためだ。
他方、大手会計事務所や法律事務所などが企業価値担保権について活用法などを解説しているが、どれも金融機関の実務現場とはかけ離れた内容で、「物足りない」(信金幹部)。多くの地域金融機関の担当者は融資管理の実務に不安を募らせているのが現状であろう。
5月25日スタートの企業価値担保権のスケジュールを逆算し、この時期に伊藤氏の勉強会が金融庁、近畿財務局主催で実施されたことの意味は決して軽くない、とみるべきだ。
- 2026年1月30日
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◎計測とコベナンツの「沼」を越えて=伊藤貢作氏が勉強会・企業価値担保権(前編)⑤
企業価値担保権付き融資をめぐり北門信用金庫の伊藤貢作常勤理事企画部長兼企業支援室長が1月26日、金融庁で「企業価値担保権の『業種別支援の着眼点』を活用した実務的理解」~実務者としての私見~と題した勉強会を開催した。
伊藤氏は言わずと知れた「業種別支援の着眼点」の原案作成者。伊藤氏の勉強会は1月23、26日に金融庁で開催され、2月20日には近畿財務局でも実施予定だ。伊藤氏は金融庁地域金融企画室専門調査員も務めている。
企業価値担保権付き融資をめぐっては、金融庁は「画一的な融資管理手法」などの公式見解を示さない見通しだ。かつての画一的な金融検査マニュアル(別表の引当ルール)が「事業性があっても担保がない企業には貸せない」という極端な融資慣行を生み出した、との反省があるためだ。
他方、大手会計事務所や法律事務所などが企業価値担保権について活用法などを解説しているが、どれも金融機関の実務現場とはかけ離れた内容で、「物足りない」(信金幹部)。多くの地域金融機関の担当者は融資管理の実務に不安を募らせているのが現状であろう。
5月25日スタートの企業価値担保権のスケジュールを逆算し、この時期に伊藤氏の勉強会が金融庁、近畿財務局主催で実施されたことの意味は決して軽くない、とみるべきだ。
さらに金融庁は3月中にも「業種別支援の着眼点」の後継バージョンを公表予定だ。この後継バージョンは、「審査の目線」での活用内容として構成される見通しである。ハンズオンコンサルで定評のあるブレイン・アンド・キャピタルソリューションズの黒澤祐一マネージングディレクターが原案執筆に関わり、伊藤氏も監修を担当したあたりから推察すると、伊藤氏の勉強会の内容、そしてこの後継バージョンを企業価値担保権の参考にし、独自の「味付け」をしていくのが、金融機関における企業価値担保権の現実的な対応かと思われる。
▽事業性評価の「深掘り版」
伊藤氏は勉強会において、企業価値担保権についての現実的理解として、「事業性評価の深掘り版である」という考えを示した。
企業価値担保権は、従来の担保概念と異なり、金融機関が継続的な企業支援を伴う事業性評価融資を行うことを前提として、「貸出債権はおおむね保全されている」と会計上みなす設計となっている。
実際は、米国で一般的なキャッシュフローレンディングと同様、一行取引がメインシナリオとなるため、一般担保との優先・劣後が問われるような概念論は「時間の無駄」と伊藤氏は切り捨てている。
企業価値担保権とは、不動産担保が十分ではないものの事業性を見出すからこそ金融機関側がリスクを取って貸し出すものであり、そこには「地域経済・企業への理解度が試される」とした。
つまり、どこまでいっても「各金融機関の『決め』の世界である」と伊藤氏。従来の金融検査マニュアルでは、要注意先とされた10年を超える融資、破綻懸念先とされた20年を超える融資に踏み込んでいく金融機関の決断が問われるのだ。
▽計測とコベナンツ
伊藤氏は企業価値の計測について「DCF法などの一般法則を求めるべきではない」との見解を示した。DCF法は「アートの世界」(伊藤氏)であり、画一的な計測には「計測できないものは無価値だ」と肝心の企業価値を見誤ってしまうデメリットがあることを踏まえての発言である。
とはいえ、計数管理がまったく不要というわけではもちろんない。伊藤氏は、「『計測』と『コベナンツ』という『2つの沼』の引っ張り合いの中で、金融機関の『決め』が求められる」と述べている。
コベナンツとは、金融業界では「制限条項」と訳されるが、企業価値担保権においては、金融機関と企業経営者の信頼関係に基づく、「共通目標」「決め事」というニュアンスとして理解した方がよいようだ。逆に言えば、金融機関側の一方的な要求では、経営者が反発するだけで、現実としては成り立たないのだから。
▽「沼」に嵌まるな
伊藤氏が指摘した「沼」とは、事案によっては必要ではあるものの「嵌まるな」という警鐘の意味を込めての表現だ。
業種・業態によっては確かに企業価値を「計測」しやすいものもあると伊藤氏は説明している。
たとえば、明確な「代替技術」があり、既存の市場を塗り替えていくことが予測できるケース、「介護」のように各種統計が正確な業界、「宿泊業」のように市場シェアが計測しやすい業種だ。市場比較がしやすい特徴がある。
ただ、計測が容易だということは、事案の成否の判断も早いということである。
また、計測が容易であるということは膝詰めでモニタリングする必要がない「手放し運転」も可能だが、反対に不良債権化する可能性もあるということだ。安易に「計測」へ流れてしまう(沼に嵌まる)と手痛いしっぺ返しをくらうこともありえる。
次に「コベナンツ」である。伊藤氏は、業界の常識を一変させるかもしれない「新技術」、今後の人手確保や育成が不可欠な「受注産業全般」、感性勝負の「BtoC」などは、企業価値の計測は困難だとしている。
だからこそ、金融機関と企業経営者が信頼関係に基づいて、お互いの「決め事」を明らかにするコベナンツが重要となるのだ。計測困難ということは、結果の判明・判断も遅れがちとなる。どうしても回収は長期化し、コベナンツ依存に陥りやすいことにも留意が必要なのだ。
事案にもよるが、伊藤氏が想定している金融機関から求めるコベナンツは、「個人財産(相続財産)の開示」「口座の集約(法人・個人・配偶者・後継者)」「経営情報の開示」「経営管理をする専門家との三者契約」「資金調達についての事前協議」(役員借入・他行調達)「経営上重要な変更の事前協議(役員報酬・事業や経営資産の売買)」などだ。
反対に、事業者側から求めるだろうコベナンツは「業界や事業特性への深い理解」「業界、事業特性を踏まえた不可抗力への理解」「経営助言と資金支援」である。相互信頼に基づくものがコベナンツである以上、不可抗力による資金支援にも金融機関は備えなければならない。