◎金融庁公表「逆引き着眼点」をどう使いこなすか=資金から企業の未来を読む「推理力」

 金融庁は、中小企業融資の際、「見落としがちな確認事項」や「資金別・業種別のポイント・よくある資金使途」をまとめた「逆引き着眼点」を公表した。
 金融機関向けに策定している「業種別支援の着眼点」を融資実務で想定される出来事から「逆引き」して活用することを想定したものだ。本コラムでは、業種別支援の着眼点の派生バージョンである「逆引き着眼点」を解説しながら、地域金融機関がどう実務で使いこなすのかについて掘り下げる。

◎金融庁公表「逆引き着眼点」をどう使いこなすか=資金から企業の未来を読む「推理力」

 金融庁は、中小企業融資の際、「見落としがちな確認事項」や「資金別・業種別のポイント・よくある資金使途」をまとめた「逆引き着眼点」を公表した。

 金融機関向けに策定している「業種別支援の着眼点」を融資実務で想定される出来事から「逆引き」して活用することを想定したものだ。本コラムでは、業種別支援の着眼点の派生バージョンである「逆引き着眼点」を解説しながら、地域金融機関がどう実務で使いこなすのかについて掘り下げる。

▽融資実務に即効性

 「逆引き着眼点」の具体的な活用シーンはこうだ。

 営業担当の若手職員・融資経験が浅い職員に対し、融資役席者が融資検討先の業種別特性を踏まえて、アドバイスするイメージで作成された。

 「業種ごとの資金の増減はどういう意味を持つのか」について、業種特性と現場の実態、ヒアリングから得られる情報で、「おおよその目星」をつけるためのものである。

 たとえるならば、中小企業融資実務における「シャーロック・ホームズ」的な推理を狙ったものだ。念のためだが、中小企業に「犯罪容疑」があるという意味ではない。融資相談のあった資金を手掛かりに、あくまで中小企業の実態に迫るための思考法である。

 業種別支援の着眼点が、まだ未知(もしくは未知に近い状態)の中小企業を支援する場合、どのようなことが考えられるか、どのような目付をすべきなのかという「事件・事故の捜査手法」のようなものだ。どちらかといえば「事前」のツールである。

 ただ、実際に起きる事件・事故はある程度の類型化ができても、動機や手口、経緯は千差万別だ。

 そこで、「逆引き着眼点」は、「資金」という「顕在化した手掛かり」から「中小企業に本当は何が起きているのか」「どうなる可能性があるのか」を推理するための「事後のツール」とでもいえるのではないか。

 ゆえに、業種別支援の着眼点が「中小企業支援担当者のためのもの」だとすれば、「逆引き着眼点」は、資金繰り・融資相談を受けている融資実務全般に「即効性」があるものだといえよう。

 単純にいえば、「逆引き」は、「業種別支援の着眼点」を融資実務の現場で使いやすくするための補足資料である。むしろ、使い手(この場合は金融機関)の立場になって、行政施策をより使いやすくなるように補足的な政策を講じるアプローチは、かつての金融庁ではみられなかったという点でも興味深い。

▽4つの資金使途で解説

 中身をみていこう。

 「逆引き」では、資金使途で考えられる「運転資金」「一時資金」「設備資金」「赤字補填資金」に分類した。

 全業種共通の運転資金では、「運転資金の変動が起きる主な要因」について、①「売上高の増減による変動」、②「取引条件の変化による増減」、③「発注単位・SKU(在庫の最小管理単位)の変化による増減」、④「運転資金の赤字補填資金への変化」があるとした。

 そもそも売上高が増えたから運転資金が増えたのか、支払い期日の短縮化で増えたのか、発注単位増加(在庫滞留・在庫増加)で増えたのか、逆に売上高が減ったために棚卸し資産が不良化したことで増えたのかでは、意味はまるで異なる。

 良い運転資金の増え方もあれば、悪い増え方もあるのだ。

▽飲食業

 業種別では、飲食業の運転資金に変動があった場合、客数の増減か、原価率の変動か、仕入れ先の変更か、取引保証金との混同はないかというポイントを押さえるのが重要だ。

 客数が増加したとしても人件費・燃料費、設備投資などの費用増加に注意が必要だろう。逆に客数減でも、非現金決済の減少であれば、運転資金の減少となる。仕入れ・費用の減少という小回りのきく経営になっているかもしれない。

 仕入れ増加は、大量仕入れによる原価低下のメリットと同時に、過剰仕入れによる消費ロス発生と原価率上昇に注意を払わねばならない。

 仕入れ減少は、運転資金減少に伴う保管コスト低下と少量仕入れによる価格上昇、配達頻度低下・配送料負担増を意識すべきだ。つまり、どのような資金変動だろうと「プラス・マイナス両面の可能性」を排除すべきではないということだ。

▽小売業

 小売業の運転資金が変動したのはなぜか。まず、客数と客単価のどちらの増減によるものかという視点が必要となる。

 客数減・客単価増による売上高の増加は、「付加価値営業」かもしれないが、一方では「固定客への押し込み販売」の場合ならば、「客離れ」を誘発するかもしれない。

 直近の「在庫回転日数」に変化はないだろうか。売れ残り在庫を資金化する仕入れ先、発注単位、SKU、リベート変更による増加運転資金だろうか。

 業種別支援の着眼点にあるように、小売業は総資産(棚卸し資産)を最大限に活用して売上を増やすことがビジネスの基本である。だからこそ、運転資金の内訳把握は決定的に重要となる。

▽卸売業

 卸売業の運転資金が変動したのは、売掛債権の回収状況に変化があったのだろうか。

 売上増の要因は、新規先か、もしくは既往先か。大手卸売業からの切り替えの場合、その理由を把握したいところだ。大手の場合、支払い条件、積立保証金のハードルが高い。このため、仕入れ先の切り替えがある場合は、財務面を毀損している可能性があるのだ。

 メーカーからの発注単位、SKUが増えた場合、大量仕入れによる仕入れ価格の低減効果を享受していなければならないはずだ。

▽建設業

 建設業の場合、完成払いか出来高払いかで資金繰りは大きく変わってくる。元請けからの受注が「完成払い」であるにもかかわらず、下請けへの発注が「出来高払い」であれば、資金繰りが厳しくなるのは明らかだ。

 実行予算や注文書を確認し、材料費、労務費に分けて比率を見極めることも重要だ。材料費の比率が高ければ、材料が現場に先行して搬入されている可能性がある。工事着工直後や早い段階で、運転資金が増えていくという見立てができる。

 一方、労務費の比率が高い場合、多くの作業員が従事する工事を手掛けている可能性があり、毎月平準的な運転資金が必要だ。

 もちろん建設業独特の支払い習慣があるため、事実上の赤字補てん資金、資金転用の可能性もある。

▽製造業

 製造業の場合は、売上、生産数量の変動に目配りが求められる。在庫の増減が、運転資金の増減につながったのか。

 「見込み生産か受注生産か」「連続生産か個別生産か」という生産形態の違いによって、在庫にどのような変化が生じるかは様々だ。

 連続生産で受注生産の場合、主要原材料在庫、過剰な仕掛品、原材料の消費期限を把握する必要がある。

 仕様書・注文書などで支払い条件や案件の売上規模を確認できる。恒常的に必要な資金かどうかも重要だ。試作品、特注品であれば、一時的なものだ。契約期間もおさえる必要がある。

 製造・販売の企業は「販売・流通に対する準備や体制」が整っているのかを確認したい。すなわち、見込み生産であれば、原材料の仕入れが需要予測とあっているのか。受注生産の場合、原材料仕入れは受注バランスにあっているか、大量仕入れであれば、仕入れ価格に見合ったメリットを得られているか、一定期間で消化できているかどうかもポイントとなる。

 在庫を財務諸表だけで判断することは危うい。ビジネスモデルを理解しなくてはならない。金額ではなく、数量×単価で在庫をみなければならない。

▽運送業

 運送業は、燃料代、庸車費などの支払い債務の変化が運転資金にとって重要だ。支払い債務の期日の先延ばしは損益悪化の疑いが濃厚である。

 売上見込みは既存取引の拡大によるものか、或いは新規取引先だろうか。新規の場合であれば「取引の継続性」が問われる。

 自社便であれば、車両と運転手の確保が重要となる。外注・庸車の場合は、自社便で引き受けられない理由を知りたいところだ。

 入金条件や案件の売り上げ規模を確認し、採算性に問題がないかどうかも把握すべきだ。

 併せて、キーパーソンである「配車係」の力量もチェックすべきだ。業種別支援の着眼点にあるように売上獲得能力、庸車(外注)の効率性は配車係の腕で左右されるからだ。

▽サービス業

 サービス業の運転資金が増えた場合、客数の大幅増によるものだろうか。キャッシュレス決済比率の増加による一時的な運転資金の増加かを見定める必要がある。

 本業に付随する物販の仕入れ資金が増えた可能性はあるか。ともすると、客数減少を危惧し、売上を維持するために固定客に押し込み型の物販であれば注意が必要だ。

 仮払金、短期貸付金の増加、手元現預金の減少はないだろうか。資金の社外流出が必要運転資金の不足を招き、追加運転資金の申し込みがあったのかもしれない。小規模なサービス業特有の、会社会計と生活費の混同が背景にあることも多い。

▽医療業・介護業・宿泊業

 運転資金が増えたとして、患者数・利用者数の増減を確認しただろうか。医療・介護報酬の入金サイトは原則3カ月だ。患者・利用者数が一定規模を割り込むと即赤字になる。運転資金が赤字補填資金になっているかもしれない。

 本業に付随する仕入れ資金かどうかも確認しなければならない。

 立地、利便性、患者同士の口コミで来院数は変わる。1日あたり30人前後の患者数がなければ収益的に厳しい。

 介護業は、利用者数とサービス単価で収益は左右される。

 宿泊業は、団体客中心で稼働している場合、売上債権の回収に注意だ。特定の取引先の売掛金が増加している場合、業績悪化の可能性もある。

 飲食部門(宴会)の売上が大きい場合、飲食業としてみなさなければならない。

▽「同じ事件」はない

 上記は「逆引き」のうちの運転資金についての解説に過ぎない。「一時資金」「設備資金」「赤字補填資金」についても、資金という「手掛かり」「痕跡」から推理できることは山ほどある。

 同時に「事件」は一つ一つに特徴があり、まったく同じではない。「逆引き」を文字通り「着眼点」としつつ、これとかい離している現象に遭遇した場合、「なぜ違うのか」にも深い洞察があるべきだ。真摯に向き合う姿勢が中小企業融資、中小企業支援でも問われる。

著者について

編集長:橋本卓典

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。2009年から2年間、広島支局にも勤務。2020年編集委員。2025年8月から経済ジャーナリストとして独立。2016年5月に「捨てられる銀行」(講談社現代新書)を上梓、累計35万部のベストセラーになる。NIKKEI FINANCIALにも寄稿。ラジオNIKKEI「記事にできない金融ウラ話~橋本卓典が語ります」でパーソナリティも務める。

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1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。2009年から2年間、広島支局にも勤務。2020年編集委員。2025年8月から経済ジャーナリストとして独立。2016年5月に「捨てられる銀行」(講談社現代新書)を上梓、累計35万部のベストセラーになる。NIKKEI FINANCIALにも寄稿。ラジオNIKKEI「記事にできない金融ウラ話~橋本卓典が語ります」でパーソナリティも務める。

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