◎寄付講座で外国人材を育成する「農耕型」への転換を=森興産⑫
東京などの大都市ではない地方エリアが、外国人労働者の定着を見据えて、海外から人材を確保することは簡単なことではない。なぜならば、外国人側に日本の地方のイメージがない、もしくは希薄だからだ。もし、来日した外国人材が事前に抱いたイメージに比べて、現実がかけ離れていることを目の当たりにして失望してしまえば、その地を離れてしまう原因になりかねない。これでは定着は難しい。
人手不足が深刻化する地方が、外国人材を定着させるためのアプローチはどうしたらよいのか。森興産の森隼人社長に聞いた。
- 2026年9月18日
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◎寄付講座で外国人材を育成する「農耕型」への転換を=森興産⑫
東京などの大都市ではない地方エリアが、外国人労働者の定着を見据えて、海外から人材を確保することは簡単なことではない。なぜならば、外国人側に日本の地方のイメージがない、もしくは希薄だからだ。もし、来日した外国人材が事前に抱いたイメージに比べて、現実がかけ離れていることを目の当たりにして失望してしまえば、その地を離れてしまう原因になりかねない。これでは定着は難しい。
人手不足が深刻化する地方が、外国人材を定着させるためのアプローチはどうしたらよいのか。森興産の森隼人社長に聞いた。
▽「仕事があるから」「給与を出すから」では人材はこない
森興産は、地方自治体の事業委託を受けて、外国人材の定着をサポートしている。特に重視しているのは、自治体・地域へ外国人材を勧誘するまでに「どれだけ『意識づけ』『刷り込み』ができるか」だという。
森社長は「たとえば、徳島県の場合、現地で日本語を学ぶ外国人に『阿波踊り』を教えて、『この時期、こういうイベントがある』という刷り込みをすることが重要なのです」と話す。
群馬、神奈川、和歌山などそれぞれの県ごとに、これを丁寧に進めていかなければ定着は難しいのだという。「仕事があるから」「給与を出すから」という理由だけで外国人材の確保と定着を考えているとしたら、甘いと言わざるを得ない。
▽寄付講座による予備知識と意識づけ
森社長によれば、外国人材の地域定着を上げていくために地方自治体が打つべき有効策の一つは、現地における「寄付講座」だという。
人材を確保したい国の学校に「県寄付講座」を設けて、その県についての予備知識の提供と、意識づけを通じて、親しみをもってもらうことが肝要となる。
筆者が今夏に訪れたベトナム・ダナンの土産屋「ハントゥ」でアルバイトをしているクイさんは、ダナンの大学で日本語を学習中だ。来日経験はない。
来年から来日し、ホテル・旅館業で働く予定だが、どの地域かは未定だという。
クイさんに日本の魅力、してみたいことを聞いてみたが「ディズニーランドに行きたい」というのが夢であった。このため勤務先は千葉、東京近郊を期待しているという。
言うまでもなく、外国人材にも夢や期待がある。「日本で稼いで家族に仕送りする」ことだけが来日の目的というわけではないのだ。
▽アーリーエンゲージメント
森社長は「アーリーエンゲージメント(早い段階における深いつながりづくり)の仕組みを整え、実践していくことが問われていきます」と話す。
森興産は、現地において日本語の習得だけでなく、文化講習も同時並行で進めていくサポートに力を入れてきた。
文化講習は、大半のケースでは現地の日本語教師を務める外国人に任せる。寄付講座は給与に補填する形で行われるケースもある。当然、日本語教師は日本の「地方」に住んだことがない場合もある。そのため、森興産が情報を集めて、30分程度の簡単な講座として提供していく。
その際、資料として「スライド」をつくるのではなく、当該県のホームページを活用しているという。県のホームページを自動翻訳して「外国人情報」「観光PR」などのページで説明していくのだ。
県のイメージをつかみやすくなるだけでなく、県で受けられる具体的な外国人向けサービスを知ることもできるためだ。
外国人が来日する前の早い段階で、日本の地方の名産、どのような名勝があり、県のウェブサイトにはどういう情報が掲載されているのかを知っておくことが「定着」への近道となる。
「その場限りのスライドを参考資料としてしまうと、『スライドがその県のすべて』と受け取られかねません。随時更新されていく県ホームページという『既存の情報』を見せながら教えていく方が実践的です」と森社長は語る。
▽壁は日本語力
どの県も、自分の地域に優秀な人材が来てほしいと願っている。たとえば、製造業では、マネージャーを務められるエンジニアで、将来の幹部候補を求める声が多いという。
森興産がベトナムでアクセスしているのが、ベトナムでトップのハノイ工科大学、ホーチミン工科大学、ダナン工科大学などだ。
壁となるのが、「日本語力」だ。たとえば、電気系統の勉強をしており、かつ日本語レベルが高いという学生など、ほぼ皆無だ。
日本語能力試験(JLPT)では、難易度を最高ランクのN1からN5の5段階に区分している。
N1はビジネス交渉でも十分に通用する最難関で、在留資格「高度専門職」取得時にも優遇される。
N2は、日常・社会的な場面での日本語を一定程度理解できるレベルだ。
N3は、日常会話レベルであり、多くのエンジニア人材が目指すのがこのレベルだ。
N4は、基本的な日本語を理解できる特定技能1号で求められるレベルであり、N5は、基本的な日本語をある程度理解できるという「入門レベル」となっている。技能実習生として来日する外国人はこのレベルで入国してくる。
現地で日本語を学んでいても、N5レベルどまりの学生は珍しくないという。だからこそ、日本語教育の段階から現地に踏み込んでいく意味がある。
▽人材を育てる「農耕型」への発想転換を
とはいえ、県には「せっかく日本語を教えても他県に人材が取られてしまったら、事業が無駄になってしまう」というジレンマがつきまとう。
「うちの県にだけ」というのであれば、森興産の提案する「踏み込んだ寄付講座」だ。独自に日本語と地方文化を教える寄付講座を提供するという事業で差別化を図らないと人材獲得競争を勝ち抜けない。
講座名に地元県の名前をつけて、県に親近感をもってもらう。関心が高まったところで、地元企業とのマッチングを行う。こういう外国人目線に立った流れをつくらなくては話にならない。
待っていては人材はやってこない。技術レベルも日本語レベルも高い人材をうまく獲得するなどという「狩猟型」は幻想である。現地に入り込み、長期的な視点に立ち、人材を育てていく「農耕型」に転換しなければ、人材獲得競争を勝ち抜けない時代が到来している。