◎BaaSがもたらす銀行界の地殻変動―「顧客接点」の主導権を誰が握るのか
JR九州がSBIホールディングスと組み、金融事業に参入すると発表した。鉄道会社などの非金融事業者が相次いで、金融サービスへ参入している目的は「経済圏の囲い込み」にある。それを可能にしているテクノロジーが、BaaS(Banking as a Service)と呼ばれる銀行による金融サービスの提供だ。
背景には、人口減少で主力事業の衰退が避けられないインフラ業種が非主力事業で収益を出さなければならない切実な事情がある。鉄道会社は運輸収入よりも非運輸収入を伸ばさなければ成長は頭打ちとなる。
反対に、伝統的な既存銀行は、BaaSによって金融サービスに参入した企業による「預金吸い上げ」の影響で、預金量の6~7割を占める個人預金の争奪戦がさらに厳しさを増す時代が到来する。統合・再編も加速し、伝統的銀行の存在理由、存在価値が一層問われるだろう。
今回は、BaaSを切り口に、時代の転換を迎えつつある銀行業界の構造変化を読み解く。
- 2026年9月27日
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◎BaaSがもたらす銀行界の地殻変動―「顧客接点」の主導権を誰が握るのか
JR九州がSBIホールディングスと組み、金融事業に参入すると発表した。鉄道会社などの非金融事業者が相次いで、金融サービスへ参入している目的は「経済圏の囲い込み」にある。それを可能にしているテクノロジーが、BaaS(Banking as a Service)と呼ばれる銀行による金融サービスの提供だ。
背景には、人口減少で主力事業の衰退が避けられないインフラ業種が非主力事業で収益を出さなければならない切実な事情がある。鉄道会社は運輸収入よりも非運輸収入を伸ばさなければ成長は頭打ちとなる。
反対に、伝統的な既存銀行は、BaaSによって金融サービスに参入した企業による「預金吸い上げ」の影響で、預金量の6~7割を占める個人預金の争奪戦がさらに厳しさを増す時代が到来する。統合・再編も加速し、伝統的銀行の存在理由、存在価値が一層問われるだろう。
今回は、BaaSを切り口に、時代の転換を迎えつつある銀行業界の構造変化を読み解く。
▽JR九州も参入
JR九州は2027年度にも「JQ BANK(仮称)」の運用を始める。SBIが開発する「総合金融プラットフォーム」を活用し、ポイントサービス「キューポ」・交通系ICカード「SUGOCA(スゴカ)」と連携した金融サービスを提供する。
JR九州のポイントサービス、鉄道予約アプリの会員数は約500万人で、2029年度までに20万口座の開設を目指すという。
これまでのBaaSと異なるのは、「銀行機能」だけでなく「証券機能」も利用できるという拡張性だ。SBI新生銀行だけでなく、SBI証券を傘下に持つSBIホールディングスならではの強みの発揮であり、BaaS戦争の戦線は「銀行機能」以外にも広がっていく。
鉄道会社の金融サービス参入は相次いでいる。
2023年、京王電鉄が当時の住信SBIネット銀行(現ドコモSMTBネット銀行)のBaaSを利用し、「京王NEOBANK」を開設したのを皮切りに、JR東日本は楽天銀行と組み、2024年5月から「JRE BANK」をスタートさせた。
JR西日本は関西みらい銀行(りそなホールディングス)と組み、「WESTERミライバンク(仮称)」を2027年度中にも開業する予定だ。
近鉄グループホールディングスは三菱UFJ銀行、阪急阪神ホールディングスは池田泉州銀行から、それぞれBaaSを活用したインターネット銀行のサービスを2027年以降、順次開始する予定と発表している。
▽BaaSとは
BaaSは、銀行が自らの金融機能(口座開設・預金・決済・融資等)をAPI(Application Programming Interface)経由で、非金融事業者へ提供する仕組みだ。自行のシステムに外部からの接続を許可し、サービスを利用できるようにするというイメージである。
これによって、非金融事業者でも銀行そのものにならずとも、同じ金融サービスを顧客に提供できるようになる。
BaaS提供元となるには、勘定系システムがAPIと親和性の高いオープンシステム、クラウドが有利となる。
そもそも情報を外部に出すことを想定していないメインフレームでは、API対応は困難だからだ。
この点でも、日本航空、ヤマダ電機、高島屋、京王電鉄などにBaaSを提供するドコモSMTBネット銀行(旧住信SBIネット銀行)、JR東日本に提供する楽天銀行、そして今回、SBIと組んだJR九州のネット銀行の方が、メインフレームが中心の伝統的銀行よりも相対的に有利となっている。
つまり、システム戦略がBaaS戦略の明暗を分けているともいえるのだ。
▽預金制約時代
BaaSの提供元となるか、提供先となるかによって戦略は大きく変わってくる。
提供先になれば、BaaS提供元にプラットフォームの利用料を支払いながら、ポイントやマイルを連動させた金融サービスを行い「経済圏での顧客粘着性」を高めることを狙うことになる。
提供元、つまり金融業そのものになれば、金融庁の監督下に入る。親会社も場合によっては検査の対象となる。法対応、規制対応は厳格に守らねばならない。
一方、「金利ある世界」において極めて重要なポイントとなるのが、「BaaSを通じて得た資産は、提供元にオンされる」ということだ。
たとえば、JR東日本の「JRE BANK」に預けたお金は、実質的にはBaaS提供元の楽天銀行の預金残高となるのだ。
伝統的銀行は、金利を一定期間上乗せする預金キャンペーンでコストを払いながら預金を調達している。これに対し、BaaS提供元の銀行は調達コストどころか、利用料を受け取りながら預金も集まってくる仕組みを手にしていることになる。
預金の調達コストが圧倒的に異なるのだ。運用・収益面においても差が出るのは自明である。
楽天銀行の預金残高は13.7兆円(2026年8月末)だ。地方銀行の預金残高が前年比で1000億円程度の増加、1~2%程度の増加率であるのに対し、楽天銀行は1兆円超、10%超の伸び率を叩き出している。これは驚異的だ。
人口減少、少子高齢化、デジタルネイティブが増えていく若年層を鑑みると、地銀の脅威になってくるのは間違いない。
「金利ある世界」で預貸業務に「追い風」だとしても肝心の預金が集まらないことにはメリットを享受できないという意味において、「預金制約時代」はBaaSによって顕著になっていくだろう。
▽BaaSの歴史
BaaSの歴史は、2010年代前半に欧州で法整備が進み、銀行側のデータ開放が義務付けられたことから始まった。
iphoneが発売された2007年以降のスマートフォン革命がアプリの市場を切り拓き、BaaSの可能性を押し広げたのだ。
日本では、2017年の改正銀行法でオープンAPIが努力義務化されたことで始まった。
ところが日本の既存銀行の反応は鈍かった。むしろAPI接続に否定的であった。
前述の通り、オープンシステム、クラウドへの対応が遅れたことが背景にある。このため、総じてネット銀行の後塵を拝している。
GMOあおぞらネット銀行は、岡三証券、ラクスル、弥生、freeeなどの他、池田泉州ホールディングス傘下の01銀行にもBaaSを提供している。
ふくおかフィナンシャルグループ傘下のみんなの銀行もメルカリ、丸善ジュンク堂、テンプスタッフなどにBaaSを提供し、2027年度の黒字化を目指している。
▽インフラ業種の動向
興味深いのは、NTTドコモの動向だ。
元々、ドコモは旧住信SBIネット銀行からBaaSを提供される側(提供先)だった。
ところが、2025年10月1日に住信SBIネット銀行を子会社化し、銀行業に参入。BaaS提供元に転身したのだ。
通信事業も鉄道と同様、国内では人口減少の影響を直撃する。非通信事業の収益拡大は、ドコモにとっても至上命題だったのだ。
その上で、BaaS提供先にとどまらず、提供元に身を置いたのはインフラ業種がついに金融業に直接参入してきたことを意味する。
つまり、鉄道、通信だけでなく、人口減少が直撃する電力、ガス、交通など他のインフラ業種も今後、金融業に参入してくることを予感させる。
それだけではない。金融機関が「裏方」にまわる「組み込み型金融」の競争も激化する可能性も感じさせるのだ。
▽顧客接点が覇者を決める
ポイントは「顧客接点」の主導権を誰が握るのか、だ。
筆者は「家の中に入れるビジネス」「生活習慣に入れるビジネス」「人体に入れるビジネス」が顧客接点の「覇者」に近づくとにらんでいる。
ガス、ウォーターサーバー、通勤、ヨガ・ジム、ゲーム、健康食品・機能性食品の通販などは「入れるビジネス」の典型だろう。
経済圏での消費活動がポイント・マイルに反映していく経済圏ビジネスは、AIエージェントの導入によって、購買判断さえ委ねるようになるかもしれない。
その時、伝統的銀行はどうするのか。「顧客接点」とは、「顧客利益」「顧客体験」と一体不可分だ。思い切って、BaaS提供元の「裏方」にまわるのか、組み込み型金融にはならず、コストをかけてでも顧客接点を持ち続けるのか。
購買判断さえ委ねかねないAIの進化において、顧客接点の意味や形、価値自体も変わるかもしれない。ここまで考え、手を打っている銀行はどこまであるのだろうか。