◎「地域のグローバル人事部」がなぜ必要か?=外国人材を孤立させない地方創生の未来・森興産⑦

 春は入学、就職のシーズンだ。
 外国人の留学生・労働者も4月から通学、通勤を始める。森興産にもこの春、数名の外国人材が入社した。
 今回は、森興産に入社した外国人材について、森隼人社長に掘り下げて取材したコラムを紹介する。採用した外国人材の人物像やバックグラウンドから、母国の様子、日本での暮らしにおける「壁」がみえてくるからだ。
 外国人材を定着させるための地域の生活支援やインフラは、企業単独では対処できない。地域をあげてこうした課題に対処していくための「地域のグローバル人事部」という枠組みが各地で生まれている。

◎「地域のグローバル人事部」がなぜ必要か?=外国人材を孤立させない地方創生の未来・森興産⑦

 春は入学、就職のシーズンだ。

 外国人の留学生・労働者も4月から通学、通勤を始める。森興産にもこの春、数名の外国人材が入社した。

 今回は、森興産に入社した外国人材について、森隼人社長に掘り下げて取材したコラムを紹介する。採用した外国人材の人物像やバックグラウンドから、母国の様子、日本での暮らしにおける「壁」がみえてくるからだ。

 外国人材を定着させるための地域の生活支援やインフラは、企業単独では対処できない。地域をあげてこうした課題に対処していくための「地域のグローバル人事部」という枠組みが各地で生まれている。

▽デジタルネイティブなネパール人

 森興産に入社した一人目は、システムエンジニアのネパール人男性だ。森興産の外国人材の情報共有サイト「WA.SA.Bi.(ワサビ)」の担当として採用した。

 留学生では中国人に次ぐ多さで、近年、日本で働く外国人材として増えているのがネパール人である。

 来日するネパール人の技能は多様で、「インドカレー屋」(実はネパール人が経営)などの飲食業に従事する者もいるが、「IT技術者、機械工学を学んだ高度人材の層も厚くなっている」(森隼人社長)という。なぜ、ネパールの若者は優秀な人材が豊富なのだろうか。

 森社長によれば、ネパールなど南アジアの若者たちは、固定電話やパソコンの時代を経験することなく、一気にスマートフォンを手にした「リープフロッグ現象」で成長したデジタルネイティブ世代だ。さらに、幼少期から英語教育を受けており、英語が母国語に近い感覚だという。

 「彼らは英語がペラペラなのに『TOEIC』『TOEFL』の試験を受けたことがない人が多いのです。我々日本人が『日本語検定』を受けないのと同じ感覚です。日本の企業が求人票で『TOEIC○点以上』と足切りをしてしまうと、せっかくの優秀な人材を取りこぼしてしまいます」と森社長。

▽日本の会計に精通した中国人女性

 中国人女性もこの春に採用した一人だ。

 森興産は、資格取得学校の「TAC」と連携し、中国・大連の学校で「日本の会計知識(全経簿記2級レベル)と日本語」をセットで教える独自のプログラムを展開してきた。

 海外に進出する日本企業にとって、現地法人の決算情報が数カ月遅れで日本の本社に上がってくることは経営上のリスクだ。日本の会計基準を正しく理解し、現地の状況をタイムリーに報告できる人材の育成は、グローバル展開企業にとって避けて通れない。

 中国人女性は、このプログラムの出身者だ。確かな会計知識と日本語習得というポテンシャルの高さを評価して採用したという。

▽外国人材の確保を阻む「2つの壁」

 こうした外国人材は「雇って終わり」では済まない。

 大きな壁となるのが、まず「住居」の問題である。

 外国人の賃貸契約は、保証人を求められることも根強くある。森興産は「いい部屋ネット(大東建託)」「エイブル」と連携し、全国規模でスムーズに部屋を借りられる体制を整えている。それでも大家から保証人を求められる際は、森社長が個人的に保証人となることもあるという。

 日本の高い「引っ越し費用」も生活を切り詰めている留学生や新社会人にとっては重荷となる。

 節約のために、免許を持つ他の留学生が軽トラックを借りて、仲間内で引っ越しを行っているのが、当たり前となっている。こういうケアをすることも優秀な外国人材を確保する上で大切なポイントだ。

▽「運転免許必須」で採用のハードル上がる

 もう一つの壁が運転免許だ。

 地方企業の場合、求人票に「普通自動車免許必須」と盛り込んだ時点で、優秀でも運転免許を持たない外国人材が就職を諦めてしまっている可能性がある。

 25万~30万円もする自動車教習所の費用を外国人留学生が支払うのは容易ではない。「入社後の運転免許取得を支援」と採用のスタンスを変えるだけで、採用のハードルも下がるのだ。

 働く場所、学ぶ学校の周辺に、外国人が暮らしていける交通インフラ(自転車圏内、送迎バス)はあるだろうか。電動自転車の貸与など、外国人の立場になって人材定着を考える必要がある。

▽「地域のグローバル人事部」

 森興産は経済産業省の「地域の人事部」推進事業において、「伴走支援型委託事業者(サポート・指導役)」として、選定された全国3社のうちの1社だ。外国人材に特化した事業者としては、唯一の存在である。

 人手不足は、一企業で対処できない地域の課題だ。

 そこで森興産は、地方銀行などと一緒にこうした課題を解決していこうというコンセプトで「地域のグローバル人事部」を掲げている。

 特に中国銀行が主導する「地域のグローバル人事部岡山」が先進的な動きをみせている。2026年2月には、岡山市で数百人規模のセミナーを開催した。

 地方では外国人材に対する抵抗感は根強い。他方、人手不足は深刻で、外国人材の確保がなければ生産・サービス提供もままならないのが現実だ。地域の信頼が厚い地域金融機関が「旗振り役」となって、地域全体の人手不足問題に取り組む意義は大きい。

▽労災に備え大手損保も参画

 このコンソーシアムの特徴は、あいおいニッセイ同和損害保険が参画している点だ。

 外国人労働者の労災リスクは日本人よりも高いとされ、労災保険のニーズが高まっているためだ。不測の事態に備えるこうしたセーフティネットも外国人材を地域に定着させる上で欠かせない視点だ。

 人手不足にあえぐ地方が生き残るためには、産官学金が連携し、あらゆる方策を尽くして、地域の魅力を海外へ直接発信し、能動的なパイプをつくらねばならない。

著者について

編集長:橋本卓典

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。2009年から2年間、広島支局にも勤務。2020年編集委員。2025年8月から経済ジャーナリストとして独立。2016年5月に「捨てられる銀行」(講談社現代新書)を上梓、累計35万部のベストセラーになる。NIKKEI FINANCIALにも寄稿。ラジオNIKKEI「記事にできない金融ウラ話~橋本卓典が語ります」でパーソナリティも務める。

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1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。2009年から2年間、広島支局にも勤務。2020年編集委員。2025年8月から経済ジャーナリストとして独立。2016年5月に「捨てられる銀行」(講談社現代新書)を上梓、累計35万部のベストセラーになる。NIKKEI FINANCIALにも寄稿。ラジオNIKKEI「記事にできない金融ウラ話~橋本卓典が語ります」でパーソナリティも務める。

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