◎急浮上した「地域未来金融アクションプラン」とは何か

「新たなメインバンクサービス」と銘打たれた「地域未来金融アクションプラン」(仮称)なる構想が動き出した。2026年5月19日の自民党金融調査会で提言が打ち出され、翌20日の地方銀行例会でも金融庁から示された。

 今回のコラムでは、にわかに浮上した地域未来金融アクションプランとは何かをリポートする。

◎急浮上した「地域未来金融アクションプラン」とは何か

 「新たなメインバンクサービス」と銘打たれた「地域未来金融アクションプラン」(仮称)なる構想が動き出した。2026年5月19日の自民党金融調査会で提言が打ち出され、翌20日の地方銀行例会でも金融庁から示された。

 今回のコラムでは、にわかに浮上した地域未来金融アクションプランとは何かをリポートする。

▽地域未来金融アクションプラン

 地域未来金融アクションプランとは、地域金融機関と中小企業活性化協議会など中小企業関係機関が連携し、地域ごとに中小企業への伴走支援・再生支援の状況を可視化して、重点的に支援すべき企業の「成長型再生」に取り組むための施策だ。

 具体的な内容はこれから詰めるが、高市政権の目指す「強い経済」を踏まえ、業況不振の中小企業に関しても、単なるリスケではなく、数値化された課題の解決に向け、再生支援につながるような方策を講じられる見通しだ。各地域で期限と数値目標を掲げるかどうかは今後の焦点だろう。

 実際、活性化協議会の再生案件は低調だ。

 たとえば、2024年度の相談件数は8761件で、過去最高となったという。金融機関との調整(金融調整)が終わった支援完了件数も、23年度の1029件から24年度は微増した。

 ただ、金利返済もできないとされるゾンビ企業は、2024年時点で21万社、企業再生が必要な「再生フェーズ」の企業は40万社ともいわれる。対応は、雀の涙だ。

 地域未来金融アクションプラン構想が出てきたということは、「再生の遅さの原因は、案件を持ち込まない地域金融機関にある」という問題意識が政府内で強まっていることの裏返しともいえる。

 ただ、金融庁が積極的かというと微妙な空気も感じる。なぜなのか。

▽地域別カルテ

 元々、地域未来金融アクションプランの原案は「地域別カルテ」と呼ばれていた。

 地域ごとに異なる企業再生の状況を数値化して、金融機関に決断を迫りたいという中小企業庁側の思惑が働いていたようだ。

 これに対し、かつての裁量行政と決別した金融庁側では「法令違反ならともかく、個別経営への介入は難しい」との考えもある。

 事実、地域によって中小企業金融を取り巻く状況が著しく異なることから金融庁は中小企業問題に関しては、丁寧に対応を進めてきた。

 名称が変わった経緯までは現時点で情報を入手していないが、単なるカルテでは終わらせないという「裏方の調整」がにじむ。

▽事業者支援態勢構築プロジェクト

 実は、金融庁は2021事務年度金融行政方針に「事業者支援態勢構築プロジェクト」を打ち出していた。

 新型コロナウイルス禍で、資金供給だけでは不十分な企業に対して、地域金融機関が中心となって、地域性、業種特性を踏まえて、経営改善・事業再生・事業転換支援を講じていくという座組であった。

 地域未来金融アクションプランと何が違うのか。内容は酷似している。金融庁も「事業者支援態勢構築プロジェクトとの違い」の説明には苦虫をかみつぶすような気持ちだろう。事業者支援態勢構築プロジェクトが「コロナ禍の対応だった」という整理はできるが。

 名称を一新しての衣替えのウラには、省庁間の駆け引きや政治家の強い押しが必ずあるとにらんでよい。地域未来金融アクションプランは、自民党金融調査会の伊藤達也会長肝いりだけに、金融庁も押し返せないところがあるのではないか。

▽地域同床異夢という現実

 金融庁をも悩ませてきた地域特性とは何か。地域金融を一括りにすると、掛け声倒れに終わってしまう程、地域差があるのだ。これを無視しても現場と現実は動かない。

 たとえば、地域トップ地銀が君臨し、第二地銀以下は完全にひれ伏しているような地域は数多くある。一方、一定の収益力のある二番手がいる地域では、トップ地銀の思い通りには地域がまとまらないところもある。

 或いは、圧倒的なトップ地銀は不在で第二地銀がひしめき合う名古屋もあれば、信用金庫が根を張る京都もある。埼玉りそな銀行、関西みらい銀行のような大手銀行グループ傘下もあれば、大都市圏に積極的に攻め込んでいる地銀もある。SBIホールディングスが出資しているグループもある。つまり、画一的な取り組みを求めることは現実、難しいのだ。

 たとえば、債権放棄、債権売却を伴うような抜本再生では、貸倒引当金を十分に積んでいる地銀、信金もあれば、経営体力次第ではそうではないところもある。

 或いは、十分に引当金を積んでいても、債権放棄・売却が容易にできないところもある。信金の場合、歴史ある大口融資先は「総代」を兼ねているケースは珍しくない。ある総代の債権放棄に応じれば、別の総代から「ずるい。不公平だ」との反発が上がるのを恐れて、債権を売却しない信金もある。

 こうした「地域同床異夢」の地域金融機関に半強制的に債権放棄を求めても何も変わらない現実があるのだ。

 現状では、貸倒引当金を積み、かつ自己資本に余裕があれば金融庁は経営そのものには踏み込めない。

▽「地域の未来金融」を考える

 以下は、筆者の私見だ。

 活性化協議会を活用した債権カットスキームは、政府が中小企業の大倒産を恐れず、大なたを振るう覚悟がない限り、大規模には増えないだろう。こういってしまうと身もふたもないが、大企業・中堅企業を前提とした再生スキームを中小企業に当てはめようとした制度設計がそもそも間違っているのだ。

 ここは発想を変え、「債権カットを前提としない損益改善の実行支援」を新たな旗印に掲げ、政策として推進すべきなのではないか。

 「業種別支援の着眼点」では、欠けている重要な業種がある。それは「地域金融業」だ。

 地銀という「生きもの」のふるまい、信金・信組という「生きもの」の特性をまずは着眼するところから始めれば、共通解はみえてくるはずだ。

 それは地域金融機関に「いいからやれ」と迫ることではない。地域金融機関にとっても好ましく、拒絶反応を示さない道を選びながら、中小企業の「成長型再生」を目指すのが、現実的な「地域の未来金融」ではないだろうか。

著者について

編集長:橋本卓典

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。2009年から2年間、広島支局にも勤務。2020年編集委員。2025年8月から経済ジャーナリストとして独立。2016年5月に「捨てられる銀行」(講談社現代新書)を上梓、累計35万部のベストセラーになる。NIKKEI FINANCIALにも寄稿。まぐまぐメルマガ「橋本卓典の『現場をゆく』経済・金融ジャーナル」連載中。ラジオNIKKEI「記事にできない金融ウラ話~橋本卓典が語ります」でパーソナリティも務める。地域の変革、生産性向上に向けた活動を支援、協業くださるスポンサーも募集。takunori.hashimoto@sokyudo.com

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1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。2009年から2年間、広島支局にも勤務。2020年編集委員。2025年8月から経済ジャーナリストとして独立。2016年5月に「捨てられる銀行」(講談社現代新書)を上梓、累計35万部のベストセラーになる。NIKKEI FINANCIALにも寄稿。まぐまぐメルマガ「橋本卓典の『現場をゆく』経済・金融ジャーナル」連載中。ラジオNIKKEI「記事にできない金融ウラ話~橋本卓典が語ります」でパーソナリティも務める。地域の変革、生産性向上に向けた活動を支援、協業くださるスポンサーも募集。takunori.hashimoto@sokyudo.com

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