◎地方での外国人材雇用を成功させる「秘訣」とは=森興産⑨

「人手が確保できるか」―。
 労働供給制約時代において、地方の中小企業が生き残るための絶対条件は「人手の確保」である。いくら需要があろうが、生産・提供できなければ事業計画は画餅に終わる。
 AI・ロボット導入による省人化の取り組みだけでは乗り越えられない現場がある。今回は、その解決策の一つである「外国人材の雇用」における留意点を森興産の森隼人社長に聞いた。
 単に「外国人材で穴埋めすればいい」という発想ではなく、将来の海外展開を含めた企業の経営戦略にどうつなげていくのか。さらには自社を超えて、地域全体の人手不足を解決していくという面的対応にまで焦点を合わせる課題解決力が問われている。

◎地方での外国人材雇用を成功させる「秘訣」とは=森興産⑨

 「人手が確保できるか」―。

 労働供給制約時代において、地方の中小企業が生き残るための絶対条件は「人手の確保」である。いくら需要があろうが、生産・提供できなければ事業計画は画餅に終わる。

 AI・ロボット導入による省人化の取り組みだけでは乗り越えられない現場がある。今回は、その解決策の一つである「外国人材の雇用」における留意点を森興産の森隼人社長に聞いた。

 単に「外国人材で穴埋めすればいい」という発想ではなく、将来の海外展開を含めた企業の経営戦略にどうつなげていくのか。さらには自社を超えて、地域全体の人手不足を解決していくという面的対応にまで焦点を合わせる課題解決力が問われている。

▽機械導入では解決できない

 地方の都市部から車で約1時間の場所に、ある食品加工・販売会社がある。

 製造しているお菓子は、無添加で体に優しく、素材の味を引き出す商品力に加え、パッケージデザインも洒落ていて評価が高く、国際会議にも陳列される程だ。

 引き合いもあることから、まずは売上高1億円の達成を目指し、従業員11人のうち製造班3人で奮闘している。しかし、なかなか生産が追いつかないのが、経営者の悩みだ。

 ボトルネックになっているのは、油で揚げる工程と個包装の工程である。

 生産性を上げようと、ものづくり補助金で900万円の個包装を自動化する機械を購入した。だが、その機械を選定した肝心の男性社員が退職。残された女性職員には「機械は大きくて、高いところに手は届かずに扱いにくいので包装は手作業の方がはやい」と機械は使われないままだという。ものづくり補助金で購入した機械なので、簡単には売却もできない。

 設備導入は、生産能力だけでなく、生産現場の実情を踏まえて、取り扱う機械のサイズ、デザインまで考え抜かなければ、無駄な投資となる。機械が場所を占拠し続け、メンテナンス費用が発生したりと、かえって生産性を低下させかねないのだ。

▽人手不足の解決策が見いだせない

 話は続く。

 この企業は、よろず支援拠点で4月から始まった生産性向上支援センターのサポートを受け始めた。

 製造実務のプロが現場診断をした結果、指摘されたのは「人手不足の解消」という「経営者も分かり切っていた問題」であった。その「人手不足問題をどうするのか」という解決策は示されないままだ。

 この会社は、これまでも人材確保に動いてきた。その一つが外国人材の雇用だった。

 しかし、言語の違いからくる既存従業員とのコミュニケーションの食い違いなどもあり、長続きしなかった。

▽月1回の交通費支給

 森興産の森社長は、「闇雲に外国人材を採用しようとするのではなく、いくつかのポイントを踏まえたアプローチが考えられます」と話す。

 まずは、地方での外国人雇用を成功させやすくする工夫だ。

 森興産の調査によれば、「月1回、都市部へ出かけるための交通費(数千円)を福利厚生費として支給するだけで、地方企業への就職の抵抗感が15ポイントも改善した」という。こうした福利厚生の充実は有効策となりやすい。

 また、「たとえば、ベトナムでもハノイ、ホーチミンで育った若者は日本の地方にはなじみにくい。半面、同じ地方出身であれば環境に適応しやすい」と森社長。外国人材の出身地に注意を払うことは採用において持つべき視点だ。

 そして制度見直しで忘れがちなのは、既存の日本人従業員との一体性である。

 「よくあるのが外国人だけの優遇です」と森社長は指摘する。

 外国人だけを優遇すると日本人従業員の嫉妬、反発を招きやすくなる。福利厚生の制度設計は、日本人も含めた一体改革として考える必要があるのだ。

 従業員数にもよるが、福利厚生費の負担で安定的な生産能力が確保できるかどうかを見極めて判断すべきだ。

▽「助走期間」としてのインターンシップ

 地方の中小企業がいきなり外国人材の正規雇用を目指すと、ミスマッチのリスクも大きくなる。

 さらに、現場になじまずすぐに辞めてしまうと、「●●人はよくない」というイメージを日本人従業員に植え付けかねない。かえってマイナスとなる。

 そこで森社長がアドバイスするのが、インターンシップの活用だ。

 夏休みなどを利用して外国人留学生をインターンシップとして「お試し」で受け入れるのだ。海外の大学では、単位取得型のインターン(文化体験、就業体験)もある。

 こうした期間限定の「助走期間」を設けることで、日本人従業員にも受け入れやすい環境を整えることができる。日本人・外国人双方の心理的なハードルを下げるのだ。

 大学、専門学校は国からキャリア教育やインターンシップの充実を求められている。留学生就職促進教育プログラム認定制度で認定を受けている大学は一覧が公開されている。専門学校には「外国人留学生キャリア形成促進プログラム」が用意されている。こうした制度を利用し、学校側と連携して優秀な学生にアプローチできるという。

 また、留学生のインターンシップ後、高度外国人材として正社員採用した場合、単純な現場作業に専従させることはできない。

 中小企業の場合、採用した外国人材を活用して、母国への事業の海外展開という成長戦略につなげる必要もある。外国人にとってもやりがいがあるはずだ。

▽地域全体のエコシステム

 最後に「外国人材の活用は自社だけで完結するものではない」という理解が求められるという。

 日本という異国で働く外国人にとっては、同じ国の出身者同士のネットワークは生活し続ける上で、助け合い、支え合う貴重な存在となる。

 つまり、外国人材の定着を望むのであれば、地域全体の外国人材の定着も変えていく必要性があるのだ。

 自治体、大学との連携は言うに及ばず、既に地域で事業を営み、根ざしている外国人ネットワークとの共生も考えていくにはどうすべきか。さらに地域金融機関も地域の企業の雇用に無関心で済むはずがない。

 森興産は、そうした地域全体で外国人材を安定的に受け入れていくコミュニティづくりを担う「地域のグローバル人事部」として事業展開をしている。

 地域ごとの産官学金の連携レベルが、地域の外国人材の質や定着を左右し、結果として中小企業の生産能力にも直結するのだ。

著者について

編集長:橋本卓典

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。2009年から2年間、広島支局にも勤務。2020年編集委員。2025年8月から経済ジャーナリストとして独立。2016年5月に「捨てられる銀行」(講談社現代新書)を上梓、累計35万部のベストセラーになる。NIKKEI FINANCIALにも寄稿。まぐまぐメルマガ「橋本卓典の『現場をゆく』経済・金融ジャーナル」連載中。ラジオNIKKEI「記事にできない金融ウラ話~橋本卓典が語ります」でパーソナリティも務める。地域の変革、生産性向上に向けた活動を支援、協業くださるスポンサーも募集。takunori.hashimoto@sokyudo.com

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1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。2009年から2年間、広島支局にも勤務。2020年編集委員。2025年8月から経済ジャーナリストとして独立。2016年5月に「捨てられる銀行」(講談社現代新書)を上梓、累計35万部のベストセラーになる。NIKKEI FINANCIALにも寄稿。まぐまぐメルマガ「橋本卓典の『現場をゆく』経済・金融ジャーナル」連載中。ラジオNIKKEI「記事にできない金融ウラ話~橋本卓典が語ります」でパーソナリティも務める。地域の変革、生産性向上に向けた活動を支援、協業くださるスポンサーも募集。takunori.hashimoto@sokyudo.com

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