◎地域金融力強化プラン案が判明=「企業価値向上への貢献」が命題
金融庁が12月中にも公表する「地域金融力強化プラン案」の内容が判明した。
同プランでは、地域産業の縮小、担い手不足の深刻化で、地域金融機関の経営状況は「二極化」の兆候があると指摘。特に信用金庫、信用組合では、コア業務純益が下げ止まる一方で、預金量が減少する機関が増加傾向にあることに懸念を示している。こうした状況下で、地域金融機関どう地域経済に貢献する力を発揮するのか、という考え方をまとめた。
地域金融機関には「地域企業の価値向上への貢献」と「地域金融力発揮のための環境整備」という二本柱に取り組むことが求められる。本稿でポイントを考察する。
- 2025年12月17日
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◎地域金融力強化プラン案が判明=「企業価値向上への貢献」が命題
金融庁が12月中にも公表する「地域金融力強化プラン案」の内容が判明した。
同プランでは、地域産業の縮小、担い手不足の深刻化で、地域金融機関の経営状況は「二極化」の兆候があると指摘。特に信用金庫、信用組合では、コア業務純益が下げ止まる一方で、預金量が減少する機関が増加傾向にあることに懸念を示している。こうした状況下で、地域金融機関どう地域経済に貢献する力を発揮するのか、という考え方をまとめた。
地域金融機関には「地域企業の価値向上への貢献」と「地域金融力発揮のための環境整備」という二本柱に取り組むことが求められる。本稿でポイントを考察する。
1.地域企業の価値向上への貢献と地域課題の解決
▽成長企業・中堅企業への支援
プランでは、地域金融機関が、企業のライフステージや課題に応じた多様な支援を行うよう求めている。
まず「成長企業・中堅企業への支援」だ。
国が後押しする「売上高100億円」以上を目指す成長意欲の高い中堅・中小企業に対し、研究開発や設備投資、M&Aを後押しする。
この際、海外展開や高度な知見が必要な場合は、地域経済活性化支援機構(REVIC)や国際協力銀行(JBIC)などの外部プレイヤーとの連携を強化するように促す。
また、投資専門会社の活用では、規制を緩和し、 エクイティ(資本性資金)を供給しやすくする。具体的には、M&A仲介業務を追加し、株式会社以外への出資解禁、上場後も追加出資を可能とするクロスオーバー投資の解禁などを盛り込んだ。
これは主に地域トップ地方銀行の取り組みを念頭においたものだ。
▽M&A・事業承継および人材確保支援
中小企業の後継者不在問題の解決に向け、M&Aや事業承継支援を強化する。マッチング支援などを手掛けるプラットフォーム参画を促すよう監督指針で取り組みを明確にする。
国のREVICareer(レビキャリ)等も活用し、 資金だけでなく「人」の支援も重視し、経営人材の紹介業務を推進する。
2021年10月から始まったレビキャリは当初、評判が必ずしも芳しくなかったが、徐々にこなれていっている印象がある。
東京から地方に移るキャリア人材に最も必要なのは、マインドリセットだ。大企業風を吹かせたところで、中小企業では通じないどころか、反発を受けるだけである。問われるのは、スキル以上に、人間力、度量の深さ、共感力かもしれない。
▽事業再生・経営改善支援
物価高や関税措置の影響を受ける中小企業に対し、早期の「予兆管理」と支援を進める。
特に求めているのがメインバンク機能の強化だ。漫然として手を打たず、支援の先送りとなるような事態を避けるため、主体的な再生支援を促す。
これはBPO(Business Process Outsourcing)を絡めたDXと共に行うべきである。受発注、入出金、勤怠管理データを中小企業から受け取り、経理事務を代行することで初めて精度ある予兆管理が可能だ。BPOは、企業価値担保権付き融資の管理業務にとっても極めて有益である。
また、同プランでは、災害対応として、二重ローン問題等に対処するため、REVICの体制を整備すると打ち出した。
▽事業性融資の推進(脱・担保/保証)
当サイトでも度々取り上げている2026年5月25日スタートの「事業性融資推進法」施行を見据え、不動産担保や経営者保証に依存しない企業価値担保権付き融資を推進する。
企業価値担保権の活用に向け、契約書式の例示や勉強会を実施する。1月26日には東京、2月20日には大阪にて、「業種別支援の着眼点」の原案作成を手掛けた北門信用金庫の伊藤貢作常勤理事の勉強会が開催予定だ。別コラムでも触れたが「着眼点」を企業価値担保権にどう活用するかが、今後の鍵となる。
経営者保証は、2024年度の新規融資で「保証に依存しない融資」が過半数に達した実績を踏まえ、既存の保証契約についても説明義務の対象とするよう監督指針を改正する。
▽スタートアップ・DX支援
これまで、地域金融機関で敬遠されてきたスタートアップ向けの融資(ベンチャーデット)について、検査・監督の具体的な考え方を示し、適切なリスクテイクを促す。
金融機関の業務として、ITコンサルティングや経理業務の受託を明確化し、企業のデジタル化、データ連携を支援する。これもBPOを念頭においたものと理解してよいだろう。
▽地域課題解決(ローカル・ゼブラ企業等)
社会的インパクトと収益を両立する「ローカル・ゼブラ企業」へのインパクト投資や、官民連携(PPP/PFI)によるまちづくりへの参画を後押しする。
「稼ぐまちづくり」は、金融機関こそ主導して取り組まねばならない課題だ。稼ぐまちづくりの実践者で知られるエリア・イノベーション・アライアンスの木下斉代表理事、株式会社オガールの岡崎正信代表らとの連携は、地域金融機関にとって重要なテーマだ。
2、地域金融力発揮のための環境整備
同プランは、地域金融機関が将来にわたり地域をけん引し、下支えする役割を果たすため、経営基盤の強化に向けた法制度の改正や環境整備を行うと掲げる。
▽業務効率化・共同化
高度化が避けられないシステムのコスト増や専門人材不足に対応するため、金融機関同士の「共同化」を進める。
複数の金融機関による広範なシステムを共同利用する「システム共同化」、そして人材難が顕著な「内部監査の共同化」だ。
いわき信用組合問題を受けて、信金・信組では内部監査をどう機能させるかが課題と金融庁は問題意識を強めており、協同組織金融機関同士での内部監査の共同化は待ったなしの取り組みとなるだろう。
▽金融機能強化法の改正(資本参加制度)
元々、地域金融力強化プランは、2026年3月末で期限切れとなる金融機能強化法の資本参加制度の延長・見直しの必要性から議論から始まった。
公的資金による資本増強制度の申請期限(2026年3月末)を延長し、「当分の間」の措置とする。
南海トラフ地震などに備え、震災特例の枠組みを常設化するほか、いわき信組の不正融資問題を踏まえ、資本参加を受ける協同組織金融機関に対し、複数の員外監事(うち1名は完全な独立性を有する者)の選任を義務付ける。また、当局が経営強化計画の変更を命じる権限を創設する。
▽資金交付制度の延長・拡充
合併やシステム統合にかかる初期コストを支援する資金交付制度の期限を2031年3月末まで5年間延長する。
交付上限額を30億円から50億円に引き上げ、協同組織金融機関の補助率を1/3から1/2に引き上げる。
銀行と信金などの業態を超えた合併、さらに経営改善が必要な先との合併については、上限額を75億円、補助率を1/2に拡充し、インセンティブを強める。
対象経費として、システム解約違約金や、子会社化のための株式取得費用も追加する。
合併を伴わない場合でも、中小地域金融機関が勘定系システムを共同化する場合(上限15億円、補助率1/4)や、中央機関がシステム合理化を行う場合(上限150億円)の資金交付枠を新設する。
▽「機能統合」が有効な場合も
「必ずしも再編を伴う必要はない」と、これまでの「再編・統合一辺倒」から「機能統合」に踏み出したのは、本プランの特筆すべき点だ。
一部金融機関からは、勘定系システムに限定した書きぶりとなったことに対する不満の声も聞かれたが、勘定系システムは経営戦略の「写し鏡」でもあることから、同プランが指摘した本質は、小手先のシステム統合ではなく、「経営のあり方そのものを見なせ」というメッセージとして受け止めるべきだろう。
すなわち、今日のシステムは、経営戦略を実行に移す上で、必須のものとなっている。裏返せば、どんなに素晴らしい経営戦略を描いても、それを実現可能にするシステムが追い付かなければ、画餅にすぎないのである。
ただ、これまでのシステム開発コストの低減を狙っただけの「共同化」は失敗の歴史だった。各システムグループに君臨する「盟主行」の了承が得られなければ、システム開発は遅々として進まないからである。これは、目先の利益のために、核心的な自由度を犠牲にしたという優先順位を見誤った典型的だ。
機能統合の目的はシステム共同化ではない。秀逸なビジネスモデルのコピーであるべきだ。
▽優先出資の消却の弾力化
協同組織金融機関の資本調達手段である優先出資については、剰余金だけでなく資本金等を原資とした消却を可能にする特例を設け、出資の回収可能性を高めることで資本充実を図りやすくする。
3、モニタリング・その他の環境整備
▽早期警戒制度の見直し
人口動態や金利変動の影響を踏まえた定量的なシナリオ分析に基づき、将来の収益性・健全性を検証する仕組みへ高度化を図る。これまでの自己資本比率だけで金融機関の健全性を判断する時代からの脱却と捉えるべきだ。
▽モニタリングの抜本的強化
金融庁に新設した「協同組織金融モニタリング室」を活用し、財務局と連携して立入検査も活用した、「深度ある検証」を行います。特に資本参加先に対しては、経営管理態勢や法令遵守態勢を厳格に確認する。
これもいわき信組などの不祥事を受けた対策だ。金融行政は、地銀は金融庁、信金信組は財務局と検査対応を分別してきた。より本庁である金融庁が踏み込んで対応する姿勢を示したものだ。ただ、財務局との連携が、どの程度、有効性があるのかは未知数と言わざるを得ない。
▽生成AI・兼業副業
生成AIの顧客向けサービスのユースケース創出や、兼業・副業の解禁に向けた環境整備を後押しする。
▽グループ内規制の見直し
同一グループ内の兄弟銀行間における大口信用供与規制について、見直しの検討を進める。
4、まとめ
本プランは、地域金融機関に対し、事業性融資や人材紹介といった「新たな金融仲介機能」への進化を促すと同時に、システム共同化や再編支援制度の拡充によって、人口減少社会に耐えうる「経営基盤の強化」を推し進めようというものだ。地方の現実、時代の要請にかなったもので方向性は正しい。
また、過去の不正事案を教訓としたガバナンスの厳格化とモニタリングの強化も大きな柱となっており、支援と規律の両面から地域金融の再構築を目指す内容となった。