◎ポスト・ベトナムで到来する「南アジア」の外国人材時代で何が変わる?=森興産・森隼人社長に聞く⑤
地方のホテルに泊まれば、どこも清掃員はほぼ外国人労働者である。コンビニに行っても店員が外国人であるのは当たり前の光景だ。製造業の工場、工事現場でも同様である。日本人がこれを代替することは人手の面でも、賃金体系の面でも不可能だろう。
厚生労働省によれば、日本の外国人労働者数は約230万人で、うちベトナムが最多の57万人、中国が40万人、フィリピン24万人とつづく。ところがこれが今後、大きく様変わりするかもしれないのだ。
ただ、この状況が永遠に続くことはない。日本がそうであるように、アジア諸国もそれぞれに国家戦略に基づいて人材を供給しており、変化があるからだ。日本の都合の良いように人材を獲得できるわけではない。常に国家間の戦略の相互・相対関係で決まるものだからだ。
森興産の森隼人社長によれば、「2045年にはベトナムからの外国人労働者が減ると思われます」という。
日本が大きく依存してきた外国人労働市場で一体何が起きようとしているのか。
- 2026年1月31日
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◎ポスト・ベトナムで到来する「南アジア」の外国人材時代で何が変わる?=森興産・森隼人社長に聞く⑤
地方のホテルに泊まれば、どこも清掃員はほぼ外国人労働者である。コンビニに行っても店員が外国人であるのは当たり前の光景だ。製造業の工場、工事現場でも同様である。日本人がこれを代替することは人手の面でも、賃金体系の面でも不可能だろう。
厚生労働省によれば、日本の外国人労働者数は約230万人で、うちベトナムが最多の57万人、中国が40万人、フィリピン24万人とつづく。ところがこれが今後、大きく様変わりするかもしれないのだ。
ただ、この状況が永遠に続くことはない。日本がそうであるように、アジア諸国もそれぞれに国家戦略に基づいて人材を供給しており、変化があるからだ。日本の都合の良いように人材を獲得できるわけではない。常に国家間の戦略の相互・相対関係で決まるものだからだ。
森興産の森隼人社長によれば、「2045年にはベトナムからの外国人労働者が減ると思われます」という。
日本が大きく依存してきた外国人労働市場で一体何が起きようとしているのか。
▽「先進国成り」で労働者が先細るベトナム
かつては中国、現在はベトナムと、外国人材の主要供給国も、その国の国情に応じて変化を続けている。そして、これは今後も変わっていくのだ。
ASEANは、2025年5月の首脳会議で「ASEAN共同体ビジョン2045」(クアラルンプール宣言)を採択した。2045年までの長期戦略指針だ。加盟各国が2045年までの目標を設定しており、ベトナムは「先進国になる」と掲げているのだ。
そうなるとこれまでのように外国人労働者として来日しなくなるのは明らかだ。57万人がすべて消える訳ではないにしても、先細ることを前提に今から対策を講じておく必要がある。
森氏は「1人当たりGDPが7000ドルを超えれば、人の送り出し国から受け入れ国に変わると言われていますが、ベトナムが目指す2万ドルのレベルまで到達すると、もはや、わざわざ家族と離れ、日本へ出稼ぎに来る動機は激減するでしょう。これまでも中国で同様の現象が起きたことからもこの流れが推測されます」と話す。
▽ポスト・ベトナム①フィリピン
将来、ベトナム人労働者の穴を埋めるのはどこか。
森興産は関西経済連合会アジアビジネス創出プラットフォーム(ABCプラットフォーム)「人材育成・活用部会」の事務局を務めており、1月下旬にも森氏はフィリピンに飛んだ。
フィリピンは、世界有数の人材供給国だ。外貨獲得を国家戦略として位置付けている。「英語が堪能であることを強みとして、米国など英語圏に送り出してきました。ただ、地理的な近さから日本も重要なターゲットであり続けています」と森社長。
ただ、注目すべきはその質的変化にある。
森氏によれば、「フィリピンは、大学教育を受けた高度なビジネスパーソンやエンジニアを日本企業に送り込みたいと考えています。今回の訪問でも、すでに日本の大手企業に人材を輩出している大学と連携し、関経連加盟企業へのマッチングを加速させる狙いがあります」という。フィリピンからはこれまで現業職を中心とした送り出しを行なってきましたが、今後はより高度な人材の供給も増えてくると考えられる。
▽ポスト・ベトナム②インドネシア
インドネシアの人口は、2億8千万人。中国、インド、米国に次ぐ世界4位の人口大国だ。
中国と同様、インドネシアで将来の課題として顕在化しているのは、高齢化だ。2045年で、国民の約20%が高齢者(インドネシアでの定義、60歳以上)になるという予測があるのだ。
人口約3億人の20%、つまり6000万人が高齢者だ。日本の人口の半分に相当する高齢者市場が出現するのだ。
森氏によれば、「彼らが今、若者を日本に送り込んでいるのは、単なる出稼ぎのためだけではありません。来るべき『6000万人高齢化社会』に備え、課題先進国である日本の介護技術、ヘルスケアシステム、そして省人化のためのDXや自動化技術を『学ばせる』ための国家戦略なのです」という。
日本は、「足りない労働者はアジア諸国から調達すればよい」と安易に考えがちだが、そのアジア各国にも国家戦略があり、自国を発展させ、課題を解決するために日本を利用しようという考えがある。日本の都合通りに動いてくれるわけではない。
ただ、森氏は次の発想も日本は持つべきだと訴える。
「むしろ、日本側も相手方の視点を持つべきです。つまり、インドネシア人には将来、6000万人の高齢者マーケットが広がっている。日本で学んだ彼らが、日本の介護機器やシステムを現地で導入する際のブリッジになるチャンスがある。そこまで見据えた関係構築ができているかが問われています」
▽ポスト・ベトナム③南アジア
森氏が注目するのは、南アジアだ。すでに変化の兆しは統計に表れている。その筆頭がネパールである。
出入国在留管理庁によれば、2025年6月末現在の在留外国人数は395万6619人(前年末比18万7642人、5.0%増)で、過去最高を更新した。
在留カード及び特別永住者証明書上に表記された国籍・地域の数は、196(無国籍を除く。)で、上位10カ国・地域は以下の通りだ。2024年末時点で第12位だったスリランカが第9位となった。
| (1) | 中国 | 900,738人 | (+27,452人) |
| (2) | ベトナム | 660,483人 | (+26,122人) |
| (3) | 韓国 | 409,584人 | (+ 346人) |
| (4) | フィリピン | 349,714人 | (+ 8,196人) |
| (5) | ネパール | 273,229人 | (+40,186人) |
| (6) | インドネシア | 230,689人 | (+30,865人) |
| (7) | ブラジル | 211,229人 | (- 678人) |
| (8) | ミャンマー | 160,362人 | (+25,788人) |
| (9) | スリランカ | 73,067人 | (+ 9,595人) |
| (10) | 台湾 | 71,125人 | (+ 978人) |
森氏は「ネパールの人口は約3000万人。そのうち約27万人が日本に集中している。他にもスリランカ、バングラデシュといった南アジア諸国からの流入が急増しています」
▽ポスト・ベトナム④新たな課題
森氏は、南アジアからの流入におけるこれまでにない違いに着目している。
それは、南アジアが、これまで多くの外国労働者がやってきた東アジア、東南アジアとは異なり、「日系企業の未進出地域」であるという点だ。
森氏は語る。「中国、タイ、ベトナム、インドネシア。これまでの主要な送り出し国には共通点がありました。それは『日系企業の進出』です。現地にホンダのバイクが走り、日本車が走り、ヤクルトが売られている。日本企業の商品や看板が日常にあり、日系工場で働くことがステータスだった。だからこそ、『本社がある日本に行ってみたい』という自然な動線が確保されていたのです」
南アジアでも、インドはスズキのシェアが高く、この文脈で説明がつく。しかし、現在急増しているネパールやバングラデシュ、スリランカには、それがない。「これまでの勝ちパターンが通用しないリスク」(森氏)があるのだ。
「彼らは日本企業を知らないまま、ブローカーやSNSの情報、あるいは先行した同胞のコミュニティを頼りに日本に来ています。これは従来の『企業城下町からの吸い上げモデル』とは全く異なる、新しい、そして不確実な流入パターンです」
▽文化レベルまで「日本」を伝える泥臭い努力
アフリカ、南米からの労働者の大量流入の可能性について、森氏は地理的にも、近くに欧米がある点からも懐疑的だ。引き続き、アジアが労働者確保の主戦場になるのは間違いない。
バイクは「ホンダ」、乳酸菌飲料は「ヤクルト」が代名詞として定着していた東南アジアとは異なる。日本の企業ブランドイメージがそこまでないかもしれない。
アニメも現地では吹き替え放送で、「日本産」であることがどこまで認知されているのかは怪しい。アニメ頼みのソフトパワーはそこまで盤石ではないかもしれない。
円安で「日本に行けば稼げる」という経済格差だけを求心力にする時代は終わった。企業が進出していない国から人を呼ぶには、文化や言語教育を通じた、より草の根レベルでの「日本のファンづくり」が欠かせない。
「単なる日本語教育では不十分だ」と森氏は強調する。ハイコンテクストな文化背景、生活習慣まで含めた奥行きのある日本教育だ。
英語のような世界共通の言語であれば、ネイティブではない講師が教えてもさほど問題はない。しかし、ハイコンテクストな日本語の場合、ネイティブが教える重要性がある。こうした努力を惜しめば、「言語が通じるのに話が通じない」という事態が生じるからだ。
各国の国内戦略(特に東南アジア諸国の2045年ビジョン)を理解し、日本側の戦略とどのように連携させるかという視点も求められている。単なる人材交流ではなく、共通の未来ビジョンを共有できるパートナーシップを築くことが、これからの国際関係の鍵になる。