◎PDSが富山銀の筆頭株主に? 非金融異業種が地銀に求める『ネットワーク力』の真価
富山銀行は国内外46拠点でレストラン、ホテル、ウェディング運営を手掛けるPlan・Do・See(東京都港区、PDS)と資本業務提携(2025年11月13日付)を結んだ。PDSが富山銀行株の5%弱を取得し、筆頭株主となる。
両社は北陸地域のレストラン、ホテルなどのホスピタリティ産業の成長・発展で協業する。
非上場のホテル・レストラン業が地銀の筆頭株主となり、戦略的な提携を結ぶのは、地銀再編の文脈において極めて異例で、従来の『金融資本による支援』とは一線を画す。本コラムでは、この異色タッグが地銀と地域の未来をどう変えるのか考察する。
- 2025年11月24日
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◎PDSが富山銀の筆頭株主に? 非金融異業種が地銀に求める『ネットワーク力』の真価
富山銀行は国内外46拠点でレストラン、ホテル、ウェディング運営を手掛けるPlan・Do・See(東京都港区、PDS)と資本業務提携(2025年11月13日付)を結んだ。PDSが富山銀行株の5%弱を取得し、筆頭株主となる。
両社は北陸地域のレストラン、ホテルなどのホスピタリティ産業の成長・発展で協業する。
非上場のホテル・レストラン業が地銀の筆頭株主となり、戦略的な提携を結ぶのは、地銀再編の文脈において極めて異例で、従来の『金融資本による支援』とは一線を画す。本コラムでは、この異色タッグが地銀と地域の未来をどう変えるのか考察する。
▽異業種から見える「地銀の魅力」とは
スーパーやコンビニ業界による銀行業への参入、SBIホールディングスなどによる地銀への出資が語られる時、必ず引き合いに出される銀行の魅力とは「免許業種としての参入障壁の高さ」であった。預金取り扱い金融機関は免許業種であり、ファイナンス機能が異業種に魅力に映るのは、当然といえば当然である。
しかし、関係者への取材によれば、今回の富山銀行・PDS連合は、どうやら「ファイナンス機能」にとどまらず、その先に目的があるようだ。
すなわち、レストラン・ホテル業が、これまで足場のない地域に入り込み、地域資源の掘り起こし、営業展開を試みる際、銀行が持つ膨大な取引先情報を最大限に活用できる。その「ネットワーク力」にこそ大きな魅力があるのだ。
銀行を介することで地元企業はもちろん、自治体、空港、交通インフラ事業者まで幅広いアクセスが可能だ。その地域においては強力な後ろ盾と信用、交渉力を手中にすることができる。
もちろん、これには銀行側の「打てば響く行動力」、「上から目線ではない協力姿勢」があることが大前提だ。
東京にいると信じがたいことだが、いまだに地域トップ地銀が地元で振りかざす「殿様意識」のズレ具合には驚かされる。このようなことでは、東京や海外の企業からパートナーとして選ばれることはない。
PDSのような社員2000人、数百倍ともいわれる競争倍率を潜り抜けて採用された新進気鋭の企業に「選ばれる銀行」と「選ばれない銀行」の差は、取るに足らない時価総額などではない。
世界基準で戦うハイセンスな集団が組みたいと思う地銀は、「誠実さ」「地元のネットワーク」、そして何よりも「変革、挑戦への意識」だ。富山において、富山銀行が選ばれた理由は、ここにある。
むしろ、地銀はハイセンスな企業と協業させてもらうことで、自らの古い組織文化を変えるくらいの覚悟を持つべきだ。逆に、そうした企業が地銀から学ぶものは、おそらく何もないのだから。
富山銀行は、PDSから人材を数名受け入れる方針だ。
▽「サムライルート」からスルーされた富山
2024年12月のことだった、岐阜県よろず支援拠点のチーフコーディネーター(当時は予定)の黒木正人氏の誘いで岐阜・高山に取材に行く機会を得た。
ちょうど富山で取材があったので、東京から富山に立ち寄り、富山駅からJR特急ひだに乗り込んで、冬の高山に向かうところだった。
プラットフォームで列車を待っていると、不意に外国人から「特急ひだに乗るには、この場所で待っていればよいのか」と話しかけられた。聞けば、金沢から高山に行く途中とのことであった。
「富山は立ち寄らないのか」と尋ねたところ、「なぜだ?富山は乗り換え駅だろ?」と怪訝な表情を浮かべていた。「魚が超絶にうまいじゃないか」と話したが、「そうなんだ。知らなかった」という反応だった。富山は、中継点、乗り換え駅としか外国人に認知されていないのではないか。
高山、白川郷、金沢は、「サムライルート」として知られる外国人にも人気の観光ルートだが、富山は完全にスルーされている。そして、外国人のアクセスも名古屋から「特急ひだ」で北上するというのがメインコースだ。
▽安売りに甘んじてきた「富山の魅力」
PDSが富山銀行と組んで、狙うのは富山を中心とした北陸地域でのハイセンスなレストラン、ホテルの展開だ。
富山では氷見の寒ブリを始め、鮮魚の質が極めて高いにもかかわらず、安売りに甘んじてきた。信じられない安すぎる価格である。
高山で富山産鮮魚を食べる方が価格帯は高い印象があった。高山という立地、ブランド力をバックに強気な価格を打ち出しているのに対して、富山ではそれがない。
なぜならば、富山には、高級路線の食、宿泊、体験を世界レベルで提供できるハイセンスなホテル、レストランが存在しないからだ。
かろうじて「桝田酒造店」当主の桝田隆一郎氏が自己投資でリノベーションしてきた岩瀬地区は、富山において異世界の雰囲気を醸し出している。だが、それ以外は、田舎価格である。これは実にもったいない。PDSはここに目を付けた。そして組む相手として富山銀行を選んだ。
PDSの中心人物は、創業者の野田豊加氏である。野田氏はウェディング運営から一代で世界的なレストレン、ホテル事業を手掛ける企業を育てた人物だ。メディアには一切露出せず、ミステリアスな存在だが、今回の資本業務提携で野田氏が動いたのは間違いない。
▽富山銀行とは
富山銀行は、北陸銀行、第二地銀の富山第一銀行よりも規模は小さいが、高岡市を中心として生まれた第一地銀である。
高岡は、元々は旧加賀藩の分藩であり、金細工などが発達し、文化的には富山というよりも旧加賀藩に近い。富山市内とは違い、戦争でも空爆を免れ、往時をしのばせる趣ある街並みを残している。
富山銀行の中沖雄頭取は、中沖豊元富山県知事の次男という毛並みの良さがあり、地元名士にも信任厚い。また、旧日本興業銀行時代には、航空機ビジネスでタイ政府に張り付き、坂井辰史氏(元みずほフィナンシャルグループ社長)らと僅か数人で20億円を稼ぎ出したエピソードがある。
PDSの野田氏と意気投合し、PDSを富山に引き込んだ嗅覚は、中沖氏の優れたビジネスセンスに他ならない。
▽注目は富山空港
「稼ぐまち」を提唱し、自ら事業としてかかわるエリア・イノベーション・アライアンスの木下斉代表理事がYouTube(https://youtu.be/kd58DbeFGEk?si=n1F0J0NyBjllNESH)で指摘している通り、富山銀行とPDSの協業は、富山空港の民営化の動きと連動する公算が大きい。
和歌山県の南紀白浜空港の民営化受託と、再生の実績をもつ日本共創プラットフォームを中心とするコンソーシアム(企業連合)「JPiX・OCコンソーシアム」が2026年4月から、富山空港の運営を手掛けるのだ。
南紀白浜空港の成功は、空港単体の再生を超えた、地域全体との統合的な活性化策にあった。富山空港も恐らく地域全体での取り組みが成否を分かつ鍵となる。
その有力な一つが、富山銀行とPDSの提携だ。
私見だが、新生・富山空港は既にインバウンド(訪日外国人客)に認知されている高山、白川郷との連関性を重視すべきだろう。富山空港の運用を「高山へのアクセスの良さ」に加えて、「富山での食、宿泊体験」をアピールするのだ。
名古屋から高山に向かうのではなく、富山から高山にアクセスする導線を構築できるかどうかが試金石となる。
▽地域2番手行の生きる道
地銀再編は、「地域トップ地銀の規模を競う戦い」と「地域2番手行、第二地銀の生きる道」という2つの論点で整理する必要がある。
地域によっては、地域トップ地銀が地元第二地銀を飲み込むことを是としないところもある。
金融庁は、こうした状況も踏まえ、第二地銀と信用金庫の合併も前向きに後押しする方針だ。地域や競合関係、歴史的経緯を踏まえれば、それがふさわしいところもあるかもしれない。
他方、富山銀行とPDSの提携は、「地域金融の持続可能性」というよりも、むしろ、「地域活性化」という観点から、地域2番手行、第二地銀が銀行以外の異業種と組む方が良い場合もあるという可能性への挑戦ではないだろうか。
むしろ、規模だとか経費率だとか、そのような発想を捨て去らないと、地域の衰退を覆せないのではないか。常識にとらわれず「発想を飛ばす」ことは、事態の打開において常に考えておくべき思考訓練である。